【ビッグ・リボウスキ】ゆる~いコメディ。でもその裏に隠された意味は?
なんでこんなアホな映画がつくれてしまうのかと、
呆れてしまうようなコーエン兄弟のコメディ映画です。
ロサンゼルスに住んでいるジェフ・リボウスキは
通称デュードと呼ばれているが、
ぐうたらで現在はこれといった定職につかず、
日頃はベトナム帰還兵のウォルターや、サーファーのドニーと3人でつるんで、
ボーリングのチームをつくり暇をつぶす日々を送っている。
そのデュードの家に強盗が押し入り、金銭を要求される。
実はロスには同姓同名のジェフ・リボウスキという実業家がいて、
その家と間違えられて犯罪被害を受けたのだった。
デュードは実業家の家に乗り込んでいって、
被害を訴えて、代わりの敷物を要求するが相手にされず、
勝手に敷物を持ち帰ってしまう。
その後、今度はデュードが実業家リボウスキから呼び出され、
実業家リボウスキの妻が誘拐されて身代金を要求されたので、
金を犯人グループに渡す役目を依頼される。
そしてデュードたち3人は
どんどんややこしい事件の渦中に巻き込まれていくのだった。
おバカでゆるーい感じがなんとも最高の映画です。
とくに、デュードが薬を飲まされて幻覚を見るシーンは
バカさ加減が突き抜けていて最高です。
コーエン兄弟の作品って
コメディとサスペンスの間を
振り子みたいに行ったり来たりしている感じがあります。
コメディとサスペンスのどっちから見始めるかで、
コーエン兄弟のイメージも変わってくるかもしれません。
このビッグ・リボウスキは当初、
レイモンド・チャンドラーの小説「大いなる眠り」のような
ハードボイルドな映画を目指していたみたいで、
もしかしたら最初はサスペンス映画になるはずだったのかもしれませんが、
結局コメディになっちゃっています。
主人公のデュードは誰に対しても同じように
ふてぶてしい態度で接するけれど、
焦らず気楽にものごとを捉えるタイプ。
それに対してベトナム帰りのウォルターはキレキャラで、
スイッチが入るとすぐに大声を出して銃をぶっ放したり、
バールで車を叩き壊し始めたり、
身近にこんなヤツがいたら大迷惑なタイプです。
デュードのモデルは過去に反戦活動をしていた
映画プロデューサーなのだそうです。
作品中でもデュードはその昔反戦活動をしていた過去があるという設定ですが、
その彼とベトナム戦争帰還兵のウォルターが友達という設定も、
なかなか皮肉が利いていて面白いです。
映画の中にパパ・ブッシュ大統領のニュース映像や、
サダム・フセインのそっくりさんが登場するのは、
作品の時代設定が湾岸戦争の頃だからなんですが、
笑えるシーンではあるけれども、
そこにやはり政治的なメッセージが込められているのでしょう。
あんまり肩肘張ってぶつかり合うよりも、
まあ、気楽にやればいいんじゃないか。
というメッセージなんじゃないかと思います。
冒頭と、中頃、そして終わりに
年寄りのカウボーイが登場して、デュードと一言二言会話をかわします。
この人物はストーリーとは直接関係ないんだけれど、
作品の意味を考えるという点ではとても大事な役目を担っているようです。
なんでカウボーイなのかというと、
アメリカが建国以来、西部開拓に象徴されるように
ずっとフロンティアの拡大を目指してきたのですが、
その象徴的な存在となってきたのがカウボーイだったわけですね。
ところが、この作品の舞台となっている
太平洋に面したロサンゼルスにまで到達してしまっても開拓は止まらず、
今度はフロンティアを世界に広げてきて、
それが中東にまで出かけて行って傍若無人にふるまっている部分もあって、
そのきっかけをつくってしまったのがカウボーイなのではないかと。
で、この作品に登場するカウボーイは、
「デュードのような人が増えれば、オレたち罪人も気が楽になる」
というセリフをいうんだけれど、
罪人って何のことだろうと思うと、
コーエン兄弟はやはり西部開拓がインディアンの絶滅につながり、
さらには世界の覇権争いにまで発展して、
殺戮を繰り返す歴史が繰り広げられてきたということを
指しているのではないでしょうか。
「古き良きアメリカ」とか
「フロンティアを求めて西に、そして世界に」というのはもはや過去のもので、
今はデュードのような気楽にものごとを捉えられるタイプが出てきた。
それは開拓時代に憧れる懐古趣味の人々から見れば
嘆かわしいことなのかも知れないが、
世界にとってはむしろいいことなのではないか。
ウォルターの行動にイラつかされながらも、
そのまま友達で居続けるデュード。
ちょっとくらい考え方が違っても
共存でいるような余裕があってもいいんじゃないか?
そんなメッセージだったのではないでしょうか。
でも、今またトランプ大統領に世界中が振り回されている今、
「ビッグ・リボウスキ2」を作ってほしいです。
もちろん、そんなめんどくさい話は抜きにしても、
楽しく見られる点でとても面白い映画です。