【グッドナイト・マミー】その女は本当に母なのか?そして双子の秘密とは
目次
限度を知らない子供の行動が招くヤバすぎる結末
主人公は心の奥底に危うさを隠した双子の美少年。そんな言葉を聞くとドキドキしませんか。「グッドナイト・マミー」はそのドキドキがだんだん恐怖に変わっていき、最後には、あ然としてしまうようなホラー映画です。
その「グッドナイト・マミー」の感想・レビューです。
【原題】Ich seh, ich seh【公開年】2014年【製作国】オーストリア【上映時間】99分
【監督】ベロニカ・フランツ、セベリン・フィアラ【脚本】ベロニカ・フランツ、セベリン・フィアラ【撮影】マルティン・ゲシュラハト
【キャスト】スザンネ・ヴェスト、エリアス・シュワルツ、ルーカス・シュワルツ
ストーリー 帰ってきた母親はまるで別人のようだった
物語の舞台はオーストリアのある郊外。池のほとりにある木立に囲まれたオシャレな豪邸に住む、双子の男の子たちが主人公です。トウモロコシ畑や林の中、池などで遊んでいるのが寂しげです。
そこに母親が病院から退院して戻ってきます。母親はどうやら外科的な手術をしたようですが、母の頭部が包帯でグルグル巻きにされていて、それが本当に母なのか顔からはわからない状態でした。
二人は喜んで迎えようとするんですけど、母親の子どもたちに接する様子は入院前とはどこか違っていて、少年たちは母親に対するそこはかとない違和感を抱きます。普通なら子供たちが母親に飛びついたり、母親のほうも駆け寄って抱きしめたりしそうな場面なのに、何やら邪険に接する母親とそれに戸惑う子供たち。
その後も、子どもたちを叱る時にはヒステリックで暴力的になり、以前の優しいお母さんではなくなった母に対して、二人は徐々に反抗的になってしまい、その態度がエスカレートしていくのです。そして、この女性は本当は母親ではなく偽物なんじゃないかという疑いを持ってしまうのです。
双子の兄弟にとっての不都合な真実とは?
実際、母親の二人に対する接し方や彼女が一人の時のふるまいを見ていると、何かしら裏があるような感じもあったりして、作品を見ている側にとっても、これは本当の母親じゃないんじゃないのかと思えてしまうのです。
そもそも、母親はなぜ入院して包帯を巻いているのか、その理由が説明されません。父親とか親族とかも一切出てこなくて謎だらけのまま物語は進んでいきます。
子供や母親が森に紛れ込むシーンがあるのですが、森や水辺に囲まれた美しい風景の中でストーリーが展開されるだけに、内容の怖さや残酷な感じが強調されるように思います。
子役の二人は役名と本名が同じ、エリアスとルーカスという双子の美少年です。二人が遊んだりじゃれ合っているシーンは無邪気な感じで、とてもかわいいです。かわいいんだけれど、その分だけ後半の展開が恐ろしさが際立ちます。
少年たちと母親の間にある溝はなかなか埋まることがなく、ついに母親の態度に反感を抱いた子どもたちは、彼女をベッドに縛り付けて、本当のママはどこにいるのかを白状させようと拷問を始めるんですが、そのやり方がけっこう気分悪くなるような方法だったりします。
子どもって物ごとの加減がわからなかったり、固定観念に縛られたりしていませんから、大人だったら普通それをやったらヤバイだろうと思うような、思いもよらないことでも、やっちゃったりするんですよね。
何とか難を逃れようと母親は必死で二人を説得しようとして、エリアスは何度か母親の言葉を信じようとするのだけれど、そのたびにルーカスがあの女はうそをついていると口を出して、エリアスが信じないようにそそのかすのでした。
実はエリアスが母の言葉を信じると、ルーカスにとってはとても都合が悪い事情が隠されていたのです。
そして、ラストシーンは何でそういう結果になるかなあという、めっちゃ後味の悪い結末が待っています。
子供たちの残酷さは演技じゃなくガチだった!?
エリアスとルーカスの双子の兄弟は、オーストリア国内の130組の双子の中からオーディションで選ばれたんですが、最終オーディションの場では、椅子に縛り付けられた女性から、誘拐された母親の居場所を聞き出す演技をしてもらったそうです。すると、エリアスとルーカスが鉛筆で縛られた女性の腕を鉛筆で突き刺し始めたのを見て「この子たちしかいない」と決まったらしいです。
映画の中の行動は演技じゃなくガチだったんですね。
オーストリアのサスペンス・ホラー映画というのは、初めて観ました。実はオーストリアには「ジャンル映画」と呼ばれる、ホラーとかコメディとかいったジャンルに分類しやすいような作品というのは、あんまり存在しないんだそうです。その意味では監督・脚本を担当したコンビの一人、ヴェロニカ・フランツも、自分たちの映画はオーストリアでは珍しいタイプの映画だと言っています。
ヴェロニカ・フランツによればヨーロッパの映画は「アートハウス映画(芸術映画)」として取り扱われるケースが多くて、観る人を考えさせるようなタイプの作品が多いのだそうです。でも、そうした作品の中には、観客が実は退屈だと感じたのに、「実は高尚な意味があるんじゃないか」と深読みして、本当に良い作品なのかそうでないのか、その価値がわからなくなるものもあります。
それに対してジャンル映画の場合は、面白くなければ「つまらない」と素直に言いやすい。そこで、この「グッドナイト・マミー」では芸術映画から脱却して、考えさせるのではなく、直接心が震えるような映画を目指したのだと、ヴェロニカ・フランツはインタビューで言っています。
そのもくろみはとても成功していて、「怖い」「痛い」「不気味」といった神経にグサグサと刺さるような感覚と、そうは言っても、やはりオーストリア人らしい芸術性みたいな部分が残されて、単にグロテスクな映画になっていないのがすごいと思いました。
痛いシーンとか残酷なシーンがいやな人、そして虫が嫌いという人はこの映画は観ないほうが良いかも。