【ブルーベルベット】サスペンスタッチで描かれたデヴィッド・リンチならではのあぶない映像世界
主人公のジェフリーは都会の大学に通っていますが、
父の急病で実家がある田舎町、ノースカロライナ州ランバートンに帰ってきて、
実家であるボーモント金物店の手伝いでもしようかなと考えはじめます。
そして、入院した父親を見舞いに行った帰り道、
ジェフリー野原に落ちていた人間の耳を見つけて、
警察に行って自宅の近所に住む刑事のウィリアムズに届けます。
その後の捜査の進展が気になるジェフリーは、
ウィリアムズ宅を訪ねて状況をたずねますが、
「誰にも話をするな」と釘を刺されて家に帰ろうとします。
するとそこに、ウィリアムズの娘で高校生のサンディが現れて、
家の中でたまたま聞こえてきた話では、
近隣のクラブで唄う歌手のドロシーが関係しているらしいと
ジェフリーに話すのです。
舞台になっているランバートンという町は木材が町の産業の田舎町で、
よほど生活に刺激がないのか、
ジェフリーは警察の犯人捜しにかこつけて
探偵のマネごとを始めてしまうんです。
ジェフリーは害虫駆除業者を装って、
ドロシーのアパートに忍び込むが見つかってしまい、
やがてジェフリーは何やら妖しい世界に引き込まれていきます。
いったいジェフリーはどうなってしまうのか?
そして、耳の謎と事件の真相は?
主人公のジェフリーはイケメンで
一見いいヤツっぽい雰囲気を漂わせているんですが、
サンディに思わせぶりな態度を取るかと思えば、
なりゆきとはいえドロシーにも惹き寄せられてしまい、
けっこう優柔不断な感じを醸し出しています。
この映画をあぶない感じにしているのが、
ドロシーの家に出入りをする
謎の人物・フランク役を演じるデニス・ホッパーです。
口を開くたびに4文字の汚い言葉が飛び出してくる、
かなり攻撃的でアブノーマルな性癖の持ち主を演じていますが、
このフランクがいなければ、
映画自体が成り立たないという気がします。
この演技だけでも観る価値があると思います。
サスペンス・ミステリー映画の仕立てみたいですが、
あんまり詳しく事件そのものの解明とか謎解きをする感じがしなくて、
何か事件が起きているらしいけれど、
細かい謎解きは作品を観た後で自分で考えてみてくれよ、
とでも言いたそうな雰囲気さえ漂います。
そんなことよりも、
作品全体にただよっている妖しげな雰囲気や
倒錯的な世界を見て味わってほしいというような思いが、
画面から伝わってきます。
ジェフリーは主人公だけれど、
この映画の観客の代わりに、
ちょっとアブナい世界を覗き見するために事件現場に潜り込まされた、
テレビカメラみたいなものかなという気もします。
最後のほうで、
事件現場のシーンはなぜそうなったのか
理由がわからないシュールな場面になっていて、
こんなのはデヴィッド・リンチ監督以外は
なかなか思いつかないよなと思ってしまいます。
最終的に事件は一応解決したような形になっているけれど、
その真相はまったく謎のままです。
でも、あんまりそこを突っ込んでも実りはないというか、
映像に表現されている部分を味わう方が優先の映画だと思います。
その後、こうした危ない世界を描いた映画は
山ほど生まれてくるわけですが、
それでもデヴィッド・リンチ監督の映画が特別な光を放って、
この映画だってつい何度も観てしまうのは
いったい何故なんだろう、どこに理由があるんだろうと思ってしまいます。
それだけ独特の味わいがある映画で、
妖しい世界に対して拒否反応がない方にはぜひオススメです。
主人公のカイル・マクラクランはその後、
「ツイン・ピークス」のデイル・クーパー捜査官役を演じることになります。
ドロシー役の女優イザベラ・ロッセリーニは
映画監督のロベルト・ロッセリーニと
女優のイングリット・バーグマンの娘で、
映画監督のマーティン・スコセッシは元夫なんだそうです。