【ババドック 暗闇の魔物】あのエクソシストの監督も絶賛し、多くの賞を受賞したホラー
動画配信サイトにどんなコンテンツがあるかどうか、
一覧を眺めているうちに、
ついつい選択して何気なくみてしまうことがあります。
ババドックという映画もその中の一つで、
何の気なしに見始めたら、
つい最後まで目が離せませんでした。
【原題】The Babadook【製作年】2014年【製作国】オーストラリア【上映時間】84分
【監督】ジェニファー・ケント【脚本】ジェニファー・ケント【撮影】ラデック・ラドチュック【音楽】ジェド・カーゼル
【キャスト】エッシー・デイヴィス、ノア・ワイズマン
映画は主人公のアメリアが悪夢を見るシーンからスタートするんだけれど、
彼女は夫と死に別れて、現在はシングルマザーとして
介護老人ホームで仕事をしながら、
息子のサミュエルと母子で二人暮らしをしています。
この息子がなぜか奇行を繰り返し、
学校でもお荷物的な存在になってしまっていました。
それに手を焼くアメリアとの間に溝が生まれています。
そんなある時、
サミュエルが絵本を読んでほしいともってきたのが
「ババドック」という不気味なホラータッチの絵本。
「一度名前と姿を知ったものはババドックから逃げられない」
という文章を読み、なぜかアメリアは絵本の世界に引き込まれていきます。
その後もサミュエルの奇行に手を焼くアメリア。
そこに絵本の主人公であるはずのババドックからの電話があり、
アメリアは警察にも相談するのですが…。
絵本が出てくるホラー映画というと、
絵柄も子供っぽくて怖くないのではないかとつい思ってしまいますが、
この絵本がモノクロームのイラストが使われていて
絵柄もスタイリッシュでとっても不気味です。
甘さを極力抑えたビターチョコレートのような感じで怖いです。
アメリカ映画かと思ったらオーストラリア映画なんだそうです。
家がやたらと広くて部屋数も多ければ地下室もあったりするのは、
アメリカのホラー・サスペンスと変わらず、
家がデカイのはけっこう羨ましかったりしますが、
そんな中に母子だけで住んでいて、
しかも、二人の関係に微妙な隙間があったりすると、
食事シーンなどではなおさら家がガランとして見えます。
家の大きさが日本とは違うので、
そのおかげなのかどうか、
観客の怖がらせ方というか、恐怖シーンの演出内容も違ってきて、
日本のホラーは、自分が寝ている布団の中から
いきなり女のバケモノが顔を出したりするのに対して、
この映画では家の中を派手に走り回ったりするあたりに
観客をどう怖がらせようかという発想の違いがあるような気がします。
母と子の間に最初は心理的な距離があって、
最初は虐待になりそうなところをよく自制していたと思ってしまうのですが、
物理的な距離に変わっての溝がだんだんと深まっていき、
それに連れて怖さもヒートアップしていくところが目が離せません。
アメリア役のエッシー・デイヴィスという女優さんは
時おりキャメロン・ディアスに似ていて、
メイクをしたら美人に見えるんだろうけれど、
ほとんどの場面ではあまり化粧っ気がなくて、
本来の年よりも老けて見えるような感じなんですが、
それが、人生を半ば諦めているのをうまく表しています。
実はアメリアはもともとライターの仕事をしていたのが、
それを止めて現在は養護老人ホームの職員だったりするんだけれど、
老人たちを相手にビンゴをやるシーンなんかは、
もうアメリア自身にまったく生気というものがなくなっていて、
それだけでもう怖い感じがしてしまうんですよね。
彼女があきらめかけているように見える原因が夫の死だったり、
手に負えない息子の奇行だったりするわけですが、
そうしたことが重なってストレスが溜まりまくっているところに
つけ込んできたのがババドックなのかも知れません。
そういう役柄をリアルに演じています。
監督が女性なのだそうで、
その点ではやはり母と子の関係をしっかりていねいに描いていて、
母子家庭での子育て問題とか
息子に手を焼いていて困ったなあとか、
母と子供との愛情とか隙間の描き方が細かくて真実味があります。
妹と関係が遠のいているとかいう面の描き方もリアルです。
最初から最後までダークな雰囲気を貫いている映画なんですが、
途中で、このシーンはあの映画の場面に対するオマージュというか、
リスペクトというか、そういうシーンがいくつかあって
ホラー映画の緊張が走る怖いシーンの中で
一瞬ニンマリしてしまいます。
そこも見どころです。
エンディングはかなり不気味で、
しかも2もありそうな終わり方だったんですが、
もし製作されたらぜひ観てみたいと思わせてくれる作品でした。