【失くした体】切り離された手が元の持ち主を探してパリの街を駆け巡る
手首から切り離されてしまった「手」が、
自分がもともとくっついていた体を探して回るというアニメです。
「失くした体」というのは、
「手」のもともとの持ち主であるナウフェルという青年のことで、
このアニメは「手」の冒険物語であると同時に、
その一方で、もともとの手の持ち主のナウフェルの物語でもあります。
第72回のカンヌ国際映画祭批評家週間ではグランプリに輝いたほか、
第43回アヌシー国際アニメーション映画祭においても、
クリスタル賞と観客賞を受賞する快挙を成し遂げた作品です。
【原題】J’ai perdu mon corps【製作年】2019年【製作国】フランス【上映時間】81分
【監督】ジェレミー・クラパン【脚本】ジェレミー・クラパン、ギョーム・ローラン【音楽】ダン・レヴィ
ストーリーは手が冒険するパート、
主人公であるナウフェルの現在を描くパート、
そして、ナウフェルの子供時代を回想するパートという
3つが交錯するスタイルで描かれていきます。
手が「失くした体」であるナウフェルの子供の頃の回想が白黒で、
そして、現在の境遇とエピソードがカラーで描かれていきます。
物語は子供がハエを捕まえようとするシーンから始まります。
裕福な家庭に生まれたナウフェルは不慮の事故で両親を亡くし、
青年へと成長した今は、宅配ピザの配達のアルバイトで何とか生計を立てています。
夢を抱くだけの余裕もなく何とか生き延びているというしかない、
そんな彼が配達先のタワーマンションで、
インターフォン越しに言葉を交わしたガブリエルという女性に心惹かれて、
彼女のアルバイト先を突き止めて知り合いになり、
やがて、ナウフェルは恋に落ちます。
果たしてナウフェルの恋はどうなるのか?
そして、なぜ「手」はナウフェルから切り離されてしまったのか?
手首のところから切り離された手が一人(?)で動き回り、
自分がもともとくっついていた「失くした体」に戻ろうと、
パリの街を冒険する。
その発想がとても面白いです。
しかも、アニメだからできる表現が満載で、
アニメの面白さを満喫できる作品だと思います。
体から切り落とされて、病院の保存用冷蔵庫に保存されていた手が、
冷蔵庫から逃げ出して旅をしながらいろんな苦難に出会うんですが、
一つをクリアするとすぐまた次の危機が襲ってきて、
まるでジェットコースターに乗っているようにドキドキしてしまう。
どうなるんだろうと、釘付けになってしまいます。
手が体から離れて、
一人で生きていくのも苦労します。
手の目線から見ると(目がついているわけじゃないんですが)、
世界が大きく違って見えてくるのも面白いと思いました。
思わず手が見ている世界に引き込まれてしまいます。
普段、自分たちが住んでいる世界を
まったく違うアングルから見ると全く別物に見えてきて、
自分たちがどんな世界に住んでいるのか、
改めて考えさせられます。
とはいえ、作品全体のストーリーはとても切ない内容。
一度、社会の底辺に落っこちてしまうとなかなか這い上がれないし、
恋愛も思ったようにはうまくいかない。
行き先のない悲しみみたいなものが全編に漂っています。
運命を変えるために、
最後に主人公のナウフェルがビルからクレーンへとジャンプして、
文字通り「手の届かないところ」に行ってしまい、
結局、手は独り取り残されます。
しかし、それはナウフェルがまだ運命に負けたわけではなく、
ジャンプすることで少しだけ希望の光が見えたところで物語は終わります。
このアニメの原作となった小説「Happy Hand」を書いたギョーム・ローランは
映画「アメリ」の脚本家なのだそうです。
「アメリ」も少し他人とは違う感性をもった女性が主人公でしたが、
この作者はもともと世界を他の人とは
違った見方ができる人だったりするのでしょう。
アニメ作品としても日本のものとは違った感性で描かれています。
手の動きとか表情とかをメチャメチャ観察して、
それを巧みに映像に定着している点が素晴らしいと思いました。
光や、夜の道を走る車から見た、
森の木々が飛ぶように過ぎ去るシーンなど、
とても新鮮に見えました。