【イット・カムズ・アット・ナイト】コロナ禍の今だから観たい。パンデミックで起きた家族同士の悲劇

めっちゃオススメというわけではないんですが、
コロナが蔓延するこの時期だけに紹介せずにはいられない映画、
それがこの「イット・カムズ・アット・ナイト」という作品です。

コロナウィルスが蔓延するなかで、またこんな映画を見つけてしまいました。
物語の舞台は感染症が発生して社会が崩壊してしまった状況の世界。

テレビもラジオもなくて、クルマもそれほど走っていない山の中の1軒家で、
ポール、サラ、トラヴィスの三人家族が孤立して生活しているのですが、
そこにやってきたウィルたち3人家族との間に起きた事件を描いています。

まだ観ていない方のために最初に言っておくと、
この作品はホラー映画ではなく、
サスペンス映画に近いということを頭に置いておいた方がいいです。

【原題】It Comes at Night【製作年】2017年【製作国】アメリカ【上映時間】91分
【監督】トレイ・エドワード・シュルツ【脚本】トレイ・エドワード・シュルツ【撮影】ドリュー・ダニエルズ【音楽】ブライアン・マコンバー
【キャスト】ジョエル・エドガートン、クリストファー・アボット、カルメン・イジョゴ、ケルヴィン・ハリソン・Jr

世界が謎の感染症によって崩壊した世界。
そこにポールとサラの夫婦、息子のトラヴィスが森の中の一軒家に、
隠れるように住んでいます。
冒頭、サラの父である「じいちゃん」がその感染症にかかってしまい、
ポールが銃で撃ち、ガソリンをかけて焼くシーンから始まります。

そこにある夜、何者かが侵入し、ポールたちが捕まえてみるとウィルという若い男で、
この家が空き家だと思い、何か食料があるのではないかと考えて忍び込んだといいます。
木に縛りつけて問答を繰り返すうちに相手が信用できそうだと考えたポールは、
ウィルの案内で彼の妻と息子、そして食料を運んで家に戻ってきます。

そこから2つの家族の同居生活がスタートし、
当初は親交を深めていき、家族同士の仲もうまくいきそうでした。

ある日彼らが表で仕事をしていると、
ポールの家の飼犬・スタンリーが侵入者の気配を察知したのか、
吠え立てながら森の中で行方不明になるという事件が起きます。
そこから2つの家族の運命が大きく変わり始めるのでした。

★(以下ネタバレあり)
「It comes at night」(それは夜に来る)というタイトルから、
ホラー映画だと期待して見る人も多いと思います。
僕もその一人だったんですが、その点は見事に裏切られました。
この作品はホラー映画ではなく、ジャンルとしてはサスペンスになるんだと思います。
そこだけ最初に確認しておくと、肩すかし感が軽減されて、
必要以上に評価が下がるということはないんじゃないかと思います。

僕もホラーだと期待して最初に観て、その結末にモヤっとした印象を抱いたのですが、
なんとなく気になっていろんなレビューを観たら、高く評価している感想もありました。
評価が分かれるケースって、面白い映画であるケースも少なくないので、
それで、もう一度観てみようかと思ったのでした。
けっこうドキドキして内容も怖かったし、面白い映画だと思いました。

見どころは犬のスタンリーが消えるあたりからの物語の急展開。
ちょっとした行為や言葉で相手に対する疑心暗鬼が深まったり、
そして最後には、予想外の悲劇へとつながっていくのです。

ポールたちは自分たちのみを守るために銃で武装していますが、
その点がまさにアメリカ的なのかなと思います。

この映画の謎を解く鍵を握っているのが、家の中と外を隔てる赤いドア。
このドアが出てきたら注意して見たほうが良いと思います。

息子のトラヴィスは不眠症に陥っていて、
夜になるとランタンを持って家の中を歩き回り、
屋根裏部屋から両親やウィル夫婦の部屋を覗いたりしています。
覗き魔というよりは17歳という若さゆえの好奇心という感じです。
彼の行動が悲劇的な結末の遠因になっているとも言える。

トラヴィスがある夜、
じいちゃんの部屋で寝ているアンドリューを見つけ、
さらに赤いドアが半開きになっていて、
中に飼犬のスタンリーが戻ってきているのを見つけるのです。
その犬が感染症にかかっていたことで
人間にも感染ったのではないかと家の中は大騒ぎになります。

赤いドアの鍵はポールかサラしか扱わないので、
必ず施錠しているはずなのに、鍵がかかっていなかったというのは、
二人のうちどちらかのミスなのだから、反省すべきはポール側のほう。
でもその点は棚に上げて、アンドリューは夢遊病なのではないか、
そして赤いドアを開けたのではないかと、ウィルたちを詰問します。

ここから先は僕の推測なのですが、
ウィルとキムはまだ若い夫婦なので、
夜の行為をいたすために子供を外に出した。
その結果、アンドリューがたまたま開いていた赤いドアの向こうで、
夜中に山から戻ってきたらしいスタンリーと接触してしまった。

アンドリューは両親の寝室に戻ろうとしたけれど、
誤ってじいちゃんの部屋に入ってそのまま眠ってしまった。
それで、夜中にうろつきまわっていたトラヴィスがアンドリューを見つけて、
その際に感染してしまったという流れなのだと思います。

鍵がなぜ開いていたか、
犬がどうやって戻って中に入ったかは謎なんですけれど。

そもそも最初に戻れば、外界との接触を絶ったこの家で
なぜじいちゃんが感染したかということも謎です。

この映画の怖さは
ポールが外部との接触がないことと元々の性格も相まって
邪魔者は倒せ的な行動にだんだんと変わっていく点です。

最初、家族を守るために、
心ならずもじいちゃんを銃で撃って
ガソリンをかけて焼かなければならなかったポールたち。
それだけに神経質すぎるほど
ポールたちは感染に対する防護策をとるとともに、
よそからの襲撃に対して備えを怠らず、
めんどくさいくらい徹底していたわけです。

その後もポールは銃撃してきた2人を倒してしまいます。
ウィルは情報がとれるかもしれなかったのにと文句を言いますが、
ポールは自分のやり方を曲げなかった。

それが情報の途絶と考えの硬直化につながっていくわけですね。

ポールは気心がしれてきたウィルと一緒にウィスキーを飲み、
お互いの身の上話をし始めるのですが、
ウィルが語る身の上の小さな食い違いからその内容に疑念を持ってしまい、
飲み始めたばかりなのに、
「今日はもうこのくらいにしようか」とさっさと切り上げてしまいます。
そのシーンが、なかなか疑い深さがあって、ポール嫌なヤツという感じがします。

このシーンでも、ウィルにしゃべらせて情報を得て、
相互の信頼を深めるということもできたのに、そうしなかった。
やはり自分のやり方に固執してしまった。

本来、防ぐべきは伝染病で
伝染病を防ぐのは人の命を守る必要があるから。家族は守る対象であるはず。
ウィルの家族も一度は同じ屋根の下で寝食をともにした仲だから、
お互いに守りあったほうがいいはずなのに、
ところが、いつの間にか倒すべき相手になってしまった。

もともとは正体不明の感染症にかからないようにするという目的で、
日々の行動を律してきたのですが、
自分のやり方に固執することが、
気がつけばウィルの家族を迎えに行く間に2人の男を倒し、
その後はウィルの家族を殺めて殺人者になってしまうわけです
そして最終的には自分たちの未来も絶つことになってしまいました。

冷静に考えれば何もそこまでやる必要はなかったんですが、
ポールは自分の行動を止めることができなかった。
もっとうまい方法があったかもしれないが、
そういう行動をお互いにとることができなかったのです。

これはやっぱり伝染病のパンデミック下という特殊な条件もあって、
ポールという人物のある一面が出てきてしまったのだと思います。

ところがいま、その特殊な条件がまさに現実化してきちゃっています。
今の日本では銃を持ち出すということにはならないけれど、
自粛警察とか県外ナンバー狩りとか、あるいは感染者への差別といった形で
過剰反応が起きてきている。
マスクをしていない女性につきまとってビデオ撮影をするという事件もあった。
同じメカニズムなのかなと思います。
しかも、それが手を洗う、マスクをする、帰省を自粛するといった、
僕らが日頃やっている防衛策に端を発していて、
それがこの映画と地続きになっていると思うとなかなか怖いです。

タイトルの「イット・カムズ・アット・ナイト」(it comes at night)は、
つい「それは夜に来る」と訳してしまいますが、
ネットの翻訳サイトだと「夜になる」と訳すものもあります。

映画では夜、ウィルが家探しに入ったり犬が戻ってきたりしますが、
何か特定のバケモノが夜にやってくるシーンがあるわけではありません。
タイトルはどう解釈すればいいのか、そこも謎といえば謎です。

ポール役の主演、ジョエル・エドガートンは「ザ・ギフト」の監督・主演をした俳優で、
そこでは学生時代に自分をいじめた相手に復讐する男を演じて、
その怪演でシッチェス・カタルーニャ映画祭で最優秀主演男優賞を受賞していましたが、
この映画では製作総指揮をするとともに、家族思いだけれど頑固で危ない男をうまく演じています。

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