【七つの会議】「半沢直樹」ファンには見逃せない、池井戸潤原作の企業サスペンス
「半沢直樹」や「下町ロケット」など、池井戸潤の小説をドラマ化した「池井戸ワールド」にハマっている人にとっては、この映画はまさに見逃せない作品。そうでない人にとっても、企業を舞台としたサスペンス映画として、最後までハラハラドキドキ楽しめます。
原作は小説「七つの会議」。ある電機メーカーの万年係長のダメ社員と、営業部のお荷物となっているダメ課長、そして、寿退社と偽って実は不倫が理由でやめる女性社員。この3人がふとしたことから、一緒に会社の一大事を追及することに。
【原題】七つの会議【製作年】2019年【製作国】日本【上映時間】119分
【監督】福澤克雄【脚本】丑尾健太郎、李正美【音楽】服部隆之
【キャスト】野村萬斎、香川照之、及川光博、朝倉あき、片岡愛之助、北大路欣也、世良公則、鹿賀丈史、橋爪功
電機メーカー・東京電建の営業1課を取り仕切る坂戸課長(片岡愛之助)は
毎月優秀な営業成績を収め続けて、会社の稼ぎ頭として期待を寄せられていた。
その営業1課には、うだつの上がらない万年係長の八角(野村萬斎)が在籍していた。
営業成績が悪いにもかかわらず、毎日定時に帰ってしまう八角に対して、坂戸は膨大な仕事を与え続ける。ところがある時、八角に対するパワハラを理由に坂戸が左遷されてしまう。
一方、営業部と仲の悪い経理部は、最近になって営業1課が、製品に使われるある部品の発注先を急に変更し、その新たな発注先との接待経費が高額に及んでいることを発見。経営会議で営業部を追求しようとするが、その提案はあっさりと却下されてしまう。
実はその取引先変更の裏には、東京電建のみならず親会社であるゼノックスグループの経営をも揺るがしかねない、ある大きな秘密が隠されていたのだった。
原島(及川光博)とその部下で退職予定の浜本(朝倉あき)は、一連の出来事に違和感を覚えて、その謎を解こうとする。ところが、八角はなぜか謎の追及は止めておけと警告する。それでも原島と浜本は追及を続けて、やがて謎を解く鍵となるある事実に突き当たるのだったが…。
東京電建という電機メーカーの営業会議のシーンから始まります。営業部長が現れるまでの異様な緊張感からして、すでにドキドキするモードになり、この映画の世界に引き込まれてしまいます。
主人公・八角を演じているのは狂言師である野村萬斎。彼にとって、サラリーマンというのは対極にある職業のような気もしますが、もともと優秀な営業マンでありながら、わけあって現在は万年係長の座に甘んじている中年社員を、見事に演じています。
ほかの配役は、もう完全に「半沢直樹」や「下町ロケット」系の俳優陣で固められています。北側営業部長が香川照之を筆頭に、及川光博、片岡愛之助。北大路欣也…。及川光博はヘタレだけど、最後まであきらめずに謎を追う課長役。片岡愛之助はやっぱりオネエ役じゃないと、ちょっと物足りない感じですが、この作品では、志はあるけれど会社の方針には逆らえなかった中間管理職を好演していました。
さらに「半沢直樹」といえば絶対に欠かせないキャラである、大和田常務役の香川照之が、この作品でもその芸風全開でものすごい熱量。見ているだけで熱中症になりそうです。北大路欣也はきっとゼノックスと東京中央銀行の会長を兼ねているに違いないです。
ちなみに坂戸の兄は「半沢直樹」が勤める東京中央銀行に勤務している設定で、名刺のロゴマークはもちろん「半沢直樹」に出てくるものと一緒。また、映画に登場する会社の階段もドラマで使われている場所みたいです。
演出も対立する二人がお互いに顔を近づけて大声で怒鳴りまくるシーンとか、経営トップが参加する会議の席で、事の真相が暴露されるとか、まさに半沢ですね。作品の中でも、やっぱり土下座する人がちゃんといたので、土下座シーンマニアは必見です。
会社の指示に従って逆らえばどうなるかわからないサラリーマンの悲哀がしっかりと描かれています。そして、最後のほうで八角が日本の会社に不正が蔓延する理由を語るシーンがありますが、要するにこれは武士の昔から続いた日本の体質で、それが今でも続いているのだといいます。ということは、この映画もその武士の時代からの伝統を描いた作品、すなわち時代劇だということですね。
配役の善悪がハッキリしている印象がありますが、どちらが善でどちらが悪なのか、簡単には白黒をつけられない、そういう企業社会やサラリーマンの世界がしっかり描かれているストーリーなので、「時代劇かよ」と思いながらもつい引き込まれてしまいます。
作品の脚本も映画用にストーリーを作り直している部分もあるようです。原作の池井戸潤のインタビューを読んでみると、小説と映画はやはり面白さのポイントが違うので、脚本が小説とは違っていて当然で、面白ければいいと割り切っているみたいです。
さらに池井戸氏は、野村萬斎の演ずる八角のイメージが小説から大きくかけ離れていたので、野村萬斎が原作を読まずに演技したのではないかと思ったそうです。もちろん、野村萬斎は原作をしっかりと読み込んだ上で演じていて、池井戸氏もその演技を絶賛しています。
この映画に先立つ2013年には「七つの会議」をNHKがドラマ化していたんですね。原島役(及川光博)は東山紀之、八角役(野村萬斎)は吉田鋼太郎、北川役(香川照之)は石橋凌。ということで、配役を見るとこの映画とは雰囲気が違う作品になっているように想像されます。たぶん脚本も演出のしかたも全然違ったりしていて、原作が同じでも受ける印象がまったく変わってくるんだろうなと思いました。こちらも一度観てみたいと思いました。
ちなみにこの映画で、1ヵ所だけこれはどうなんだと思った場面として、八角たちが取引先の社長に事の真相を問い詰めるシーンがあるんですが、その場所が一般社員が働くオフィスの中なので、会社を揺るがす秘密が相手の社員たちにバレまくりじゃん、と思ったのは私だけでしょうか? 「半沢直樹」でも会社の機密みたいな内容を、居酒屋なんかで平気で大声でしゃべってますが、大丈夫なのか? リアルでも電車に乗ったり飲食店に入って、会社のあんまり外に漏らしたらいけなさそうなことを、平気で喋っている人たちを見かけますが、みんな大丈夫かぁ?