【イレイザーヘッド】最初からデヴィッド・リンチらしさ全開の長編デビュー作
目次
暗い雰囲気の不気味な演出がやみつきになりそう
デヴィッド・リンチ監督の初長編映画。
モノクロの暗い雰囲気と不気味な演出で、最初からリンチ監督らしさ全開のマニアックな映画です。
その「イレイザーヘッド」の感想・レビューです。
【原題】Eraserhead【製作年】1977年【製作国】アメリカ【上映時間】89分
【監督】デヴィッド・リンチ【脚本】デヴィッド・リンチ【撮影】フレデリック・エルムス【音楽】デヴィッド・リンチ、ファッツ・ウォーラー、ピーター・アイヴァース
【キャスト】ジャック・ナンス
ストーリーは、町の印刷会社で働くヘンリーが自宅に帰ると、アパートの向かいの部屋の女から、「メアリーから電話があった」と言われて、メアリーの家を訪れます。そこで、メアリー一家と食事をするのですが、その途中で母親からメアリーが妊娠していることを聞かされます。
ヘンリーはメアリーと結婚し一緒に住み始めますが、生まれてきた子どもはモンスターのような外見。二人は夜泣きをする子供に悩まされ始めるのですが…。
実は話の内容はシンプルだけど…
ネタバレというか、あらすじをもっと端的に言ってしまえば、付き合っている女を妊娠させてしまった男が、相手の親に迫られてあんまり気が乗らないけれど仕方なく結婚する。ところが子供が生まれて見ると、妻が子育てのストレスで精神的に追い詰められて、育児放棄して実家に帰ってしまいます。男は仕方なく独りで子供の世話をしようとするが、泣き止まないし病気になるしで、男自身も精神的に参ってしまってストレスから幻覚を見るようになり、おかしな行動をとるようなって、最後は自分も死にたくなってくる。簡単に言えば内容的にはそれだけのストーリーです。
意味が釈然としないシュールな映像が続きながら終わるんですが、映像にも音声にもいろんなデコレーションがしてあるから難解な映画に見えてしまいますが、シンプルに、結婚も子育てもイヤになって死にたいと思っている男の話だと思えば、内容的には逆にわかりやすいのかなと思います。
ただし、リンチ監督らしさ、というか、リンチ作品としてみれば、もちろん、そっちのデコレーションの方が大事なのでしょう。
どこかで電気コードがショートしているかのような音、チカチカ点滅する照明器具、意味不明な物体のアップ、どこからか現れてステージ上で歌う不気味な人物など、その後もデヴィッド・リンチ監督の作品に特徴的なシーンがすでに登場しています。
妻になる家族の行動がいちいち不気味だったり、生まれた子供の見た目がエイリアンみたいだったり、幻覚に登場する女性のキャラクターも不気味だったり、さらに、途中で登場する人物が叫んだり意味不明の行動をとる。また、夢なのか現実なのか、それとも幻覚なのか、シュールな場面が展開します。
要するに全編を通じて気持ち悪さ、居心地の悪さ、そして不気味さに満ちています。
実はリンチ監督本人の私生活を描いた作品?
もう一度ストーリーに戻ってみると、結婚して子育ての大変さや夫婦関係の維持の難しさや絶望感を、独特すぎるタッチで描いたのかなと思います。生きるのが大変だというヘンリーの思いや苦痛が、モノクロの重苦しい画面から伝わってきます。1946年生まれのリンチ監督がこの作品を5年かけて撮影して1977年に発表したということは、構想を始めたのが25~26歳くらいの頃でしょうか? 自分の経験に基づいていると言う話もあり、だとすれば、映画監督を目指している才能ある若い男が、思い描いているのとは違ってしまった私生活と、自分の将来の夢に対する思いの間で引き裂かれている感じが、映像ににじみ出ているのかもしれません。
デヴィッド・リンチとヘンリーの見た目も、髪の毛の量が多くて不機嫌そうな顔をしているところが似ているかも。
作品の途中でヘンリーの頭が取れてしまい、落ちた頭を少年が持ち去った先で、鉛筆の頭につける消しゴムに変わってしまう。これがタイトルのイレイザーヘッドになっているわけですが、頭の中身があんまりないという話なのか、記憶や感情を消しゴムで消し去りたいということのメタファーなのかと思いました。
完成後もニューヨーク映画祭への出品を断られたり、初上映の観客数がたった24人だったりと、公開したばっかりのときの興行成績はさんざんで、リンチ監督も「人生終わったかも」と思ったんじゃないでしょうか。
ところがその後、深夜上映をしたところマニアックなファンがついて、あの不気味な映像作品はいったい何なんだと、カルト的作品として信者が一気に増えたというところから、デヴィッド・リンチ伝説は始まったのかと思います。
見る側からすれば、不気味な雰囲気にずっと浸っていたいという気持ちになる。それが40年以上にわたって熱狂的なファンがついているというのは、すごいことだと思います。