【バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)】落ち目の自分を演じるユニークな映画

主人公である中年の俳優・リーガンは、
その昔、ロサンゼルスで映画俳優として活躍していたんだけれども、
その後、鳴かず飛ばずになってしまい、
一念発起して、ブロードウェイの演劇に打って出て、
再ブレイクを目指すという設定になっています。

その主役・リーガンを務めるのがマイケル・キートン。
この映画のタイトルが「バードマン」で主演がマイケル・キートン。

ということで、
「バットマン」シリーズで一躍人気が出たマイケル・キートンが、
あたかも自分が落ち目になったような映画の主役として登場しているのがこの映画。

本人もよくこの仕事を受けたよな、と思います。
しかもそれで、アカデミー賞作品賞などをとり、
本人も主演男優賞にノミネートされてしまうっていうのは、
まるで、出来すぎた映画か何かのような展開です。
いやあ映画ってホントに面白いですね。

その「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」の感想・レビューです。

【原題】Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)【製作年】2014年【製作国】アメリカ【上映時間】119分
【監督】アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ【脚本】アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ、ニコラス・ジャコボーン、アーマンド・ボー、アレクサンダー・ディネラリス・Jr【撮影】エマニュエル・ルベツキ【音楽】アントニオ・サンチェス
【キャスト】マイケル・キートン、エドワード・ノートン、エマ・ストーン、エイミー・ライアン、ナオミ・ワッツ

映画の「バードマン」でハリウッド俳優として名声を得たリーガンは
その後、鳴かず飛ばずの状態が続いていた。
そこで今度は演劇俳優として再び注目を集めようと、
ブロードウェイでレイモンド・カーヴァーの作品の上演を目指しています。

ところが、公演直前になって主要キャストの一人がケガをして、
代役として入ったのがマイク・シャイナー。
すでにブロードウェーでは人気の俳優が入ってきたことで、
喜びながらもライバル心を燃やすリーガン。

その後にもさまざまな出来事が続き、
さらには有名な舞台演劇批評家から、
新聞で酷評して上演を打ち切らせてやると脅されます。
精神的に不安定な状態になっていくリーガン。さてどうなるのか?

という作品です。

それにしても、そもそも誰が何を考えて
この作品の企画を立てたのかって知りたいですよね。
ていうか、これはそもそもマイケル・キートンありきで考えた企画なんですよね、きっと。
誰か映画やエンタメ関係者が
「そういえばマイケル・キートンって最近見ないけど、どうしてるんだろうね?」みたいな、
テレビの「あの人はいまどうしてる?」的な疑問をもって、
そこから、この構想が生まれたのでしょうか?
自分のこととして演技している。目が離せません。

この映画にはいろんな側面があります。

仕事一筋であまり周囲を顧みなかった中年のオッサンって、
いろんなことを放ったらかしてきたツケがたまって、
それは身から出たサビ的な面が多いのかもしれないんだけれども、
よりによって人生の正念場に限って不都合なことが起きてきたりします。

このリーガンの場合にも、
ブロードウェイで舞台に挑戦するみたいな、
何か新しい仕事にチャレンジしようとするときに、
周囲でけが人が出て途中でキャストを変えたり、
代役として入ってきた役者が一筋縄ではいかないタイプでぶつかり合ったり、
元妻とのヘヴィーなやりとりがあったり、
同じ舞台で共演している愛人に子供が出来たと聞かされたり、
薬物中毒で施設から出てきた娘とケンカをしたり、
批評家に難癖をつけられたり、
舞台の公演にたどり着くまでに
いろんなトラブルや家族のゴタゴタが押し寄せてきます。

僕だったら、どれか一つだけでも心が折れそうです。
主人公のリーガンは何とか切り抜けようとするんだけれど、
なかなかうまくいきません。

でも、もちろんオッサンだって実際には若い人や女性とおんなじように
ちょっとしたことで折れてしまいそうな心を持っているわけで、
再起をかけた舞台を迎えるときに、
いろんな人からいろんな言葉や態度をぶつけられて、
これは相当メンタルが強くないと切り抜けられまへんなという状況になり、
案の定、リーガンもだんだんおかしなことになっていきます。

そもそもが、リーガンの頭の中では、
バードマンがもう一人の人格みたいにリーガンに話しかけてきて、
それがメンタルが不安定な一つの理由にもなっているようなのです。

ただ、シリアスな映画なのかと思えば、
いきなり冒頭のシーンで主人公が空中に浮いていたり、
途中でとんでもないマヌケなシーンがあったりして、
あんなり深刻なトーンではなくて、コメディ風に描かれているのが救われる点。

途中で舞台を降板した男優の代わりに代役を務めることになる、
マイク・シャイナーがなかなかのイケメンなんですが、
彼との間でマウントを取り合うかと思えば、
今度は子供のケンカみたいに取っ組み合ったりして、
しょーもない側面もたっぷりと見せてくれます。

このリーガンが演じようとしている芝居が、
村上春樹が翻訳しているので知られる、
レイモンド・カーヴァーの作品です。

リーガンは学生時代にカーヴァーから褒められて、
役者への道を志した過去があって、この作品を選んだのですが、
その芝居自体も夫婦間のすれ違いを描いていて、
主人公の心の内を描いている。

この映画はそういう、
人生のあやうい部分を何とか綱渡りしながら生きていく人間の、
危うい部分を描き出しているんだと思います。

映画のBGMとして主人公の舞台に向けた緊張感やテンションの高さを、
ドラムの演奏が表現していて、その演奏がなかなかかっこいいです。
2回ほど、ドラムを叩いているシーンが一瞬だけ映るんですが、
そういう演出もおしゃれです。

リーガンの娘のサムを演じているのは、
その後「ラ・ラ・ランド」の主役を務めることになるエマ・ストーン。
反抗期なんだけれど
孤独で愛に飢えている女の子の役をうまく演じています。

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