獣道|ヤンキーからAV女優まで、伊藤沙莉の演技力を満喫する

この映画で主演している伊藤沙莉の存在を初めて知ったのは、朝ドラ「ひよっこ」(2017年)で米屋の娘のサオリ役(実は本名がヨネ子)を演じていたとき。今まで見たことがないタイプの女優で、脇役なのにやたらとテンションが高くて、しかもユニークな演技に圧倒されて、何なんだこの女優は?と呆然となり一気にファンになった記憶があります。

その後「全裸監督」や「これは経費で落ちません」「いいね!光源氏くん」とか、いろんなドラマに重要な役どころで登場していたり、映画も何本も主演していたり、CMにもけっこう顔を出していたりと、気がついてみるといろんなところに起用されてめっちゃすごい活躍をしていて、彼女が出ているとつい見てしまいます。めちゃくちゃ美人というわけではないけれど、かなり可愛かったりする。いつの間にか日常にじわじわと侵食してきて、気づいたら毎日のように目にするという、油断できない存在です。

そんな伊藤沙莉が主演した映画がこの「獣道」です。新興宗教マニアの母親からネグレクトされた女の子が、女子中高生からヤンキー、キャバ嬢、そしてAV女優までいろんな境遇を経験しながら、自分の居場所を探し続けるという作品です。

その「獣道」の感想・レビューです。

【製作年】2017年【製作国】日本【上映時間】94分
【監督】内田英治【脚本】内田英治【撮影】伊藤麻樹【音楽】小野川浩幸
【キャスト】伊藤沙莉、須賀健太、アントニー、吉村界人、でんでん、韓英恵

アイ(伊藤沙莉)は宗教マニアの母親をもっていたが、子育てを放棄されてそのまま母が入信している宗教団体に預けられて、そこで世話になってアナンダという名前をもらう。7年間をそこで暮らして教祖からも目をかけられるアイだったが、教祖が逮捕されて実家に戻ることに。しかし、母親に完全に無視されて施設に保護される。

その後、保護されて学校に通い始めたアイは、そこでリョウタ(須賀健太)と出会う。リョウタはアイに惹かれるものの特別な関係になることなく月日が過ぎる。その間、アイは地元の不良グループに加わり美人局に加担したりしながら、道を踏み外していく。

3年後アイは、ヤンキーの恋人を作ってその家に転がり込んでいたが、ところが、たまたま恋愛関係の勘違いから、不良グループに山で埋められそうになったところをたまたま助けれて、そのまま独りで山を降りていった途中で、今度は偶然顔見知りになっただけのユカの家に世話になることになり、そこで家族同然の生活を送り始めるのだったが…。

まるでコスプレみたいにいろんな役を演技

面白さは、伊藤沙莉ファンという立場からすると、伊藤沙莉のコスプレショーというかイメクラというか、そんな仕上がりになっている点なのかなと思います。ヤンキーとして金髪に紫色のジャージを着ていたかと思えば、セーラー服姿だったり派手なキャバ嬢だったり、最後のほうではAV女優としてレンタルDVD店でサイン会を開いたりしています。そのどれもが妙になじんでいて、いろんなコスプレをした伊藤沙莉のすべてがこれ一本で楽しめるという、そういう企画の映画なのかと思ってしまいます。

ファッションがなじんでいるだけじゃなく、もちろん役柄としてもその役になり切っていて、単に器用というんじゃなくて、どんだけ顔を持っているんだよという怖ろしさみたいなものも感じます。

ということで、アイが転々としながら、自分の居場所はどこなのかを探すのがこの映画のテーマなのかなと思います。

一歩間違えば転落してしまう危うさ

この作品は実話をベースに作られた映画なんだそうです。子供の虐待とか放置とか、少年が仲間に暴行されて命を落としたとか、日本じゅう全国各地で毎日のように起きている、身近といえば身近な話なんだけれど、この映画の中でアイが一時的に身を寄せるサラリーマン家庭のように、縁がない家には縁がないけれど、でも紙一重のところで一歩間違えばそっち側に転がり落ちてしまう。

ネグレクトとか放置とかいろんな放って置かれる状況があって、自分の居場所を見つけはするものの、結局アイにしてみれば何かを見返りに差し出さなければ、居場所も愛も得られないと思いこんでいるので、その都度、見返りとして自分自身の身体を相手に差し出すことになってしまいます。つらい状況が続くわけですね。

リョウタはアイが好きなんだけれど、助けることができない。自分でも助けたいのか、一緒にいたいのか、わからないんだろう。どうしたいのか? アイに逃げようと声をかけるけれど話ばっかりで、なかなか解決策を見いだせない。それで結局、新しい居場所を求めて町を去るわけですね。

「お前どこ中?」で自分自身の居場所を確認する

この映画で自分の居場所を見つけようともがいているのは、アイやリョウタだけじゃなく、不良グループのケンタ(アントニー)やユウジ(吉村界人)も同じで、反社会勢力と関わったり足を洗ったり、そこでまたヒリヒリするドラマが生まれてくるのだけれど、それぞれが自分の生きる道や場所を探してもがいている姿を描いている。

それで、よくヤンキー同士の会話あるあるネタとして、「お前どこ中?」とか「なに高?」とかお笑いの世界でもギャグになっているけれど、この映画でも何度も「どこ中」「なに高」と聞きまくっています。

単に上下関係の確認や相手とのマウンティングに使うのかと思ったら、その質問をすることで地域での他の不良たちとの関係性や序列がわかって、それが自分の身を守るケースにもつながったり、それに反した行為をするのは、ある程度覚悟が必要だっていうのも面白かったです。

そして、「どこ中」「なに高」も結局は自分自身の居場所探しで、お前はどこに所属しているのか? 誰と話すのか?誰と遊ぶのか?というのをお互いに、そして自分自身で常に確認する姿を描いた映画なのでした。

ユウジ役の吉村界人の演技が怖かった。凄みが感じられる素晴らしい演技でした。

2022年2月4日のNHK「あさイチ」で、伊藤沙莉は「ひよっこ」に登場するトキコ役のオーディションを受けたという話をしていました。トキコというのは、サオリ(ヨネ子)の恋敵役です。その当時、伊藤沙莉はある映画のために髪の毛を金髪に染めていたということで、これはたぶん「獣道」の撮影中だったんじゃないかと思います。トキコは当初の設定ではお嬢様的なキャラクターだったらしく、金髪とはギャップがあってその役でのオーディション合格とはなりませんでした。ところが、伊藤沙莉のキャラに惹かれた制作陣が彼女のために、元々は脚本に存在しなかったサオリ(ヨネ子)の役をわざわざ作って、朝ドラへのデビューが実現したんだそうです。

まさに伊藤沙莉おそるべし、というエピソードだと思います。

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