【ボヘミアン・ラプソディ】モノマネじゃなくフレディの人生を生き直したような演技に感動!

20世紀フォックスのオープニングの音楽が、ブライアン・メイ風のギターの音色で奏でられていて、その段階でもうクイーンのファンはもちろん、ロックファンだったら一気にテンションが上がるし、涙がボロボロ止まらない人だっているはず。なんて芸が細かくて、遊び心満載なんだ。

というわけでこの映画は、イギリスのロックバンド「クイーン」の誕生から伝説のバンドエイド・コンサートでのライブまでを、フレディ・マーキュリーの人生を中心に描いた、伝記的な作品です。

【原題】Bohemian Rhapsody【製作年】2018年【製作国】イギリス、アメリカ【上映時間】134分
【監督】ブライアン・シンガー【脚本】アンソニー・マクナーテン【撮影】ニュートン・トーマス・サイジェル【音楽】ジョン・オットマン
【キャスト】ラミ・マレック、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョゼフ・マゼロ、ルーシー・ボイントン、エイダン・ギレン、トム・ホランダー、アレン・リーチ、マイク・マイヤーズ

ロンドンに住むインド系移民のファルーク・バルサラは、ファンだったロックバンド「スマイル」に加入してヴォーカルを担当。自らの名前をフレディ・マーキュリーに、バンド名をクイーンに変えて、またたく間にスターダムにのし上がっていきます。

有名になって暮らしが一変したことで、バンドのメンバーや周囲の人々との関係も変り、やがてフレディは孤立することに。

そんな時、今や伝説となったコンサート「バンドエイド」への出演の話が、持ち上がるのですが…。

この映画は二つの側面があって、一つはクイーンというバンドを再現して、やっぱりステージパフォーマンスやレコーディングのようすを楽しみたいという、ファンの夢にこたえるという側面。そして、もう一つはヴォーカルであるフレディ・マーキュリーの、波乱に富んだ人生を描くという面ですね。

ステージのシーンは見ごたえがあるんだろうとは思っていましたが、実際に再現のクオリティが想像を超えていて、圧倒的に素晴らしかったです。

歌声はフレディ・マーキュリー本人の音声をそのまま使っているケースが多いんだけれど、それでも、ちゃんとラミ・マレックが歌っているように見えて、圧倒的な口パク技術です。これ、disってるわけじゃなく、褒め言葉です。一部はラミ・マレックの歌も採用されているみたいです。フレディが「スマイル」に自分をアピールする時に歌うフレーズもたぶんそうだと思うんですが、一瞬で圧倒的な歌唱力やカリスマ性を表現していて、その瞬間に彼らの将来が一変してしまう予感がするシーンとして、ものすごいものを感じました。

クイーンの曲が生まれる瞬間を再現している点も、ワクワクしました。「ボヘミアン・ラプソディ」や「ウィー・ウィル・ロック・ユー」の収録風景などは、ブライアンやロジャーなど本物のメンバーが監修しているだけあって、本当にこうだったんだろうなと思わせてくれて、その場面に居合わせたかったと思いました。

そして、最後のバンド・エイドのステージ・シーンは、圧巻としかいいようがありません。ステージ・パフォーマンスはもちろんですが、1曲目の「ボヘミアン・ラプソディ」に始まり、演奏される曲の歌詞すべてが、まさにフレディの心の叫びを表しているように聞こえてきて、最初から胸に迫るものがあります。

ステージ・パフォーマンスの細かな作りこみ方もすごいです。youtubeに実際のバンドエイドのパフォーマンスと、それを再現した映画のシーンを並べて比較した動画があったんですが、映画では細かなところまで再現されていて、しかも本物との違いもわかってとても興味深いものでした。単なるモノマネを超えて、自分自身の人生を生きているという感じが伝わってくる演技でした。

ストーリーも見ごたえがありました。

フレディ・マーキュリーが、クイーンの前身である「スマイル」に加入し、ロックバンドとして成功してスターダムにのし上がっていく。その間には恋愛あり、いさかいあり、駆け引きあり、裏切りありで、まさにロックの表と裏を描きつくしている感じです。

みんな知っている成り行きをそのまま物語にしたという人もいるんでしょう。でも、同じ人物の生涯を扱っても、作者によって受ける印象は変わってきます。その点ではこの映画は、フレディ・マーキュリーが自分自身の運命を見出して、スターになって、そして、死んでいく必然、運命を描いた作品になっていて、その点に心を打たれます。

クイーンについてはもちろん曲は知っていたし、フレディ・マーキュリーがバイセクシャルでHIVで亡くなったことも知ってはいました。でも、それ以外については知らないことも多かったですね。たとえば、ペルシャ系インド人で幼少期はインドに住んでいたとか、この映画を観て初めて知ったことが多く、そのバックグラウンドにまず驚かされました。

ロンドンのヒースロー空港で仕事をするフレディが「パキ野郎」とののしられるシーンがありますが、当時パキスタンからの移民に対する風当りが強かったようで、ちょうどこの映画の背景となった時代に作られた、ビートルズの「ゲットバック」という曲も、もともとはパキスタン移民のことを歌った曲だったようで、現在もヨーロッパで大きな問題となっている移民問題が、当時からくすぶっていたことがわかります。

そういう環境の中で感じていた息苦しさから解き放たれたいと、フレディも思っていたのでしょうし、幸いなことに類まれな歌唱力とパフォーマーとしての才能があり、それが彼の運命を大きく飛躍させることになるわけです。

移民出身である居心地の悪さや、歯が出ていることに対するコンプレックスから抜け出し、名前も本名からフレディ・マーキュリーに変えて、自分以外の何物か違う存在になるためにロックスターになった。名前を変えて、それまでの自分自身の枠に囚われない存在になりたいと思い、実現してしまった男の物語であり、その表と裏がしっかりと描かれています。

それこそ、まさにロックじゃないですか。

映画の中では、フレディが他のメンバーに対して、自分がいなければ今頃お前らは何の仕事についていたのかと、悪態をつくシーンがありました。確かに良くも悪くもフレディの人生がそのまま物語となってしまうほど強烈で、いわば「選ばれた人間」だったわけです。さらに、周囲のしがらみや常識から飛び出したおかげで、自由になることはできたけれど、その結果、周りから浮くことになる。しかも、バイセクシャルであることが知れ渡り、周囲からの目線も変わってきます。

スターだからこそ味わう、長い孤独な道のりを歩いてきたフレディだけれど、最後はメンバーや友達や家族が受け入れてくれた。そんな救済の物語として終わっています。そういう一人の人間の旅を描いた物語だったからこそ、世界的な大ヒットにつながったのだと思います。

フレディ役のラミ・マレックは決してモノマネをしたわけじゃなくて、フレディの魂、ソウルみたいなものを演じて成功した。その演技にも心を打たれました。

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