【リトル・ダンサー】夢を実現したい少年を応援したくなる映画
炭鉱の町に住む一人の少年がバレエダンサーになる夢を見つけて、その夢を実現するという映画です。ミュージカルとしても「ビリー・エリオット」という原題で有名な作品らしいです。ちょうど今(2020年10月)も、日本で公演が行われているようです。
舞台は1984年のイギリスのダーラムという炭鉱がある町。町からは海が見えて、映像から北の海の町という空気が伝わってくる感じがします。
【原題】Billy Elliot【製作年】2000年【製作国】イギリス【上映時間】111分
【監督】スティーブン・ダルドリー【脚本】リー・ホール【撮影】ブライアン・テュファーノ【音楽】スティーヴン・ウォーベック
【キャスト】ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ、アダム・クーパー
イギリスの炭鉱の町に住むビリーは、炭鉱夫である父親からボクシングを習わされているが、練習場所である体育館にたまたまバレエ教室が移動してきて練習をすることになり、バレエに興味を持ち始める。そして、女性指導者であるウィルキンソンはビリーの素質にすぐに気づき、教えながらロイヤル・バレエ団のオーディションを受けることを勧める。
反対する父に内緒でビリーはオーディションを受けようとするが、その当日、炭鉱でストライキを行う組合員とと警官隊の衝突があり、組合員である兄のトニーが連行される事件が起きて、結局ビリーはオーディションを断念する。
そのまま冬になり、クリスマスの日、炭鉱のクリスマスパーティから流れてきた父たちのグループが体育館のそばを通りかかり、ビリーが友人にバレエの手ほどきをしているところに遭遇してしまうのだが・・・。
ストーリー自体は、少年が夢に目覚めて、その夢を実現していくという、比較的シンプルな内容なんだけれど、物語の背景がしっかりしているのと、脚本がなかなかジョークも交えて飽きさせないのと、何よりも主役のビリーを演じるジェイミー・ベルの演技やダンスが素晴らしいので、最後まで目が離せなかったんですよね。
1984年当時のイギリスって、その頃は男がバレエをやるのがそんなに珍しいことではなくなっていたと思うんだけれど、舞台が炭鉱の町というのがポイントで、やっぱり炭鉱といえば男臭い仕事で、そこで働く人達の価値観がロンドンなんかとは違っていたのでしょう。父親はそれまでロンドンに行ったこともないという、炭鉱のことしか頭にないタイプで、当時のダーラムは多くの人がそんな感じだったのだろうと思います。
でも、その頃は時代の変わり目で石炭採掘事業が赤字になり、炭鉱労働者として生きていくことには先が見えないのも事実で、みんなどうやって生きていけば良いのか暗中模索している。そして、体を張って警官隊とぶつかったりして、自分たちの生活を守ろうとしている。しかも、ビリーにボクシングを習わせるのに50ペンスの授業料を支払うのにも苦労する有様。
そんなところに、ビリーがバレエをやりたいと言い出してしまったので、周囲と何でバレエなんだとぶつかり合うことになるのです。でも最後には炭鉱の男たちを、自分の踊りの力で納得させて味方につけていくわけです。日頃、バレエと接点がない炭鉱作業員をうならせるってすごいですよね。
最初はなんとなく始めたビリーなんだけど、踊っているときの表情や踊りが本当にイキイキしていて見ものです。ウィルキンソン夫人の指導を受けてバレエのターンを練習する姿は、まさに寝ても覚めてもそのことばかり考えて、上手くターンができるようになった瞬間の表情が素晴らしくて、そのシーンだけでもこの映画見て良かったなと思いました。
あるいは父からバレエを止めろと言われて、不満が爆発するシーンがそのままダンスになるシーンなども、バレエは決して習い事なんかじゃなくて、体の奥底から出てくる衝動なんだと教えてくれます。
ウィルキンソン夫人にバレエの指導を受けている場面では、その後ろにボクシングのリングが移っているんですが、ビリーにとってはバレエが戦いの場なんだということを暗に意味しているのかなと思います。
ビリーはオーディションで「踊っているときは電気になる」という紛れもない天才の言葉を口にするんですが、演じているジェイミー・ベル自身もそうなのかもしれません。
映像もいろいろ面白くて、組合員とと警官隊との衝突の場面で、兄のトニーが白いシーツが干されている庭を逃げ回るシーンなど、見た目にも鮮やかな映像が展開されています。
脚本もイギリスっぽいジョークや皮肉も多くて楽しめます。
そして、いい味を出しているのがビリーのおばあちゃんで、最初は認知症で徘徊していて大変そうなんだけれど、作品が終わる頃には妙に機敏で元気になってきて、最後の別れのシーンなどは最高です。
ビリーのおばあちゃんを見るためだけでも、ぜひ。