【アメリ】映像に引き込まれて、繰り返し何度でも見られる作品
一つひとつのシーンの映像が楽しくて美しくて、それだけでも笑えたり、ドキドキしたり、心打たれたりする映画です。映像に飽きないで何回でも見られます。
映画ってまずは目で見て楽しむものだから、「人生って楽しいよ」を映画で表現するならば、まず楽しい映像を集めてきて、目で見て楽しめるようにたくさん見せるのがいいんじゃないか。アメリはそんな思いで作られた映画なのかなと思います。
そんな「アメリ」の感想・レビューです。
【原題】Le Fabuleux Destin d’Amelie Poulain【製作年】2001年【製作国】フランス【上映時間】122分
【監督】ジャン=ピエール・ジュネ【脚本】ジャン=ピエール・ジュネ、ギヨーム・ローラン【撮影】ブリュノ・デルボネル【音楽】ヤン・ティルセン
【キャスト】オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ、セルジュ・メルラン
アメリは医者である父と学校の先生である母の間に生まれた一人娘なんだけれど、父親がアメリは心臓病だと誤診したおかげで、学校にも通わず母親に勉強を教えられながら、同じ年頃の子供との接点もなく育つことになります。
おかげで、成長してもなかなか他人とのコミュニケーションが上手く取れず、男性と付き合ったこともあったが長続きしなかった。
それでも何とか自分を変えたくて、実家を出てモンマントルのカフェで仕事をするようになります。そして、あるきっかけで人生が大きく変わり始めるのです。
そんなアメリが、ふとしたきっかけから気になる男性をみつけて、その恋を果たして成就させることができるのか? というストーリーです。
冒頭にも書いたように、最初から最後まであらゆる場面で見せ方に工夫や仕掛けがあって、それを見ているだけでも楽しい気持ちになれる映画だと思います。
たとえば、子供の頃にやった遊びや、昔こんなことやらなかった?とか、あるいは、よく晴れた日のレストランのテラスで、テーブルクロスが風に吹かれてふわふわとふくらんでいるシーンとか。心に停まった一瞬の情景を切り取って、これってなんかいいよね、とか些細なシーンが映像化されているのがとても素敵です。
遊園地に停められたバイクのシートを撫でるシーンなんかも、つい、こんなことやっちゃうよね、とか。そういう心に引っかかっている小さな断片をあちこちから集めてきて、何気ないシーンや風景の美しさに気づかせてくれる。まるで宝物みたいに見せてくれるので、それがとてもうれしくなる。
誰もが持っていそうな個人的な経験を、あちこちから集めてきて見せてくれるんですが、それは言い方を変えると、とても孤独な人の心を描いていることにもつながり、アメリって孤独な人間なんだということが映像から伝わってくる。この映画のすごいところだと思います。
また、アメリは幼い頃から同年代の子供たちと遊んだことがないという設定なんだけれど、大多数の人はなかなかそういう環境にはないじゃないですか。だとすると、アメリという人物には最初からすんなりと共感できないかもしれない。
それじゃあどうするかというと、いろんなあるあるネタを見せたり、各登場人物が好きなこと嫌いなことを見せたりして、物語が本題に入る前に、観客がアメリに共感できるような下地を作っておく役割も果たしていると思います。
監督にとってこの作品は、どうやってアメリに共感させるかの勝負だったんだろうと思います。
アメリが変わっていて何を考えているかよくわからない女だと受け取られると、作品としては共感を得られず失敗に終わってしまいます。でも、その心の声をモノローグにして流したりするのもダサいし退屈。そこで、彼女の心の声や妄想を表現するために、昔の映画やテレビのニュース映像風に描き出しているところも面白い。たとえばアメリが想いを寄せるニノが指定の時間になかなか現れず、心配する場面などで、その時の妄想の映像が、まるで漫才コンビの宮下草薙のネタのようで、笑ってしまいました。
アメリは子供時代から他人と接する機会がほとんどなかったので、どう相手にアプローチして関係づくりをすればいいかがわからない。だから、小細工をしたり作戦を立てたりして、相手の気を引くということになってしまいます。
アメリほど極端じゃなくても、たとえば初めて恋愛で人を好きになったときなんか、どう振る舞えばいいかわからないという経験は多かれ少なかれ誰にでもあると思うので、そういう人にとっては、その時の気持ちを分かち合える映画なんじゃないでしょうか。
失敗したり、傷ついたりするのが怖い、とくに、子供の頃から友達がいなくて人と接してきた経験に乏しいアメリならなおさらです。年老いた画家のレイモンから作戦を立ててやるのは卑怯だといわれ、それにカチンときたアメリはいったんは、自分がずっと孤独な人生を送るのは自分の勝手だし、それで人生を失敗したって「人間には、人生を失敗する権利がある。」と開き直ります。
でも、再びレイモンから正面からぶつかっていくように背中を押されるのです。自分の殻を破って外に出ようとするアメリと、それを後押しする人たちとのやりとりにも心を打たれます。
その後のキスシーンは心の鍵を開くための儀式、あるいは暗証番号のような不思議な感じがする場面です。
最後はバイクに二人乗りで走り回るシーンがとても素敵です。アメリはずっと独りだったおかげで、自分自身や他人との関係を自分でコントロールしなければ、不安で仕方なかったんですが、ニノと心がつながって、他人に自分自身を委ねることができるようになった。それが二人乗りということで表現されています。まるで初めて世界に触れた人の喜びみたいなものが溢れ出てくる、いろんな映画の中でも最高のシーンの一つだと思います。