【レスラー】落ち目のプロレスラー役に賭けたミッキー・ロークの姿はまさにドキュメンタリー!?

全盛期から落ち目になって、その事実を受け入れなければならなくなるのは、誰しも辛いことだと思います。

この映画の主人公のランディもそうだし、演じている俳優のミッキー・ロークも同じだったんじゃないでしょうか? そんな自分の姿が二重写しになったようなミッキー・ロークの演技が、この映画の何よりの見ものです。

その「レスラー」の感想・レビューです。

【原題】ダーレン・アロノフスキー【製作年】2008年【製作国】アメリカ【上映時間】115分
【監督】ダーレン・アロノフスキー【脚本】ロバート・シーゲル【撮影】マリス・アルベルチ【音楽】クリント・マンセル
【キャスト】ミッキー・ローク、マリサ・トメイ、エヴァン・レイチェル・ウッド

プロレスラーの「ザ・ラム」ことランディは、その昔1980年代に一斉を風靡した人気プロレスラーだった。しかし、年をとった現在は人気も鳴かず飛ばずで、地方の興行を渡り歩いては日銭を稼ぐ暮らしをしている。

唯一の楽しみはストリップバーに通って酒を飲み、馴染みのダンサーと会話すること。

そんなランディが試合で無茶なパフォーマンスをしたり、体に鞭打つようにさまざまな薬を打ってリングに上がり無理を重ねるうちに、ある時、心臓発作で倒れて病院に担ぎ込まれてしまいます。心臓のバイパス手術が行われ、レスラーとしての生命が寿命を宣言される。

傷心のランディは娘の疎遠になっていたステファニーと連絡を取ったり、馴染みのダンサーを口説いたりして、プロレスを失ってぽっかりと心に開いた穴を埋めようとするのだが…。

ここからネタバレ。


父親が近づいてきたことを最初は拒否していた娘のステファニーだったが、ランディがそれまで娘のことを構わなかったことを謝ると、心を開きかける。そして週末に食事をする約束をするのだった。

ところが、ランディはその前夜にハメを外して寝過ごし、ステファニーとの約束をすっぽかしてしまい、結局父娘の縁を切られてしまう。

一方、プロレスラーとしての選手生命を絶たれて、スーパーの惣菜売場担当として働き始めたランディだったが、客からの細かな注文にイラつき、その上、元プロレスラーのザ・ラムだと客に正体をバラされたことに腹を立てて、結局、スーパーの仕事を棒に振ってしまう。

自分にはプロレス以外には居場所がないと悟ったランディは、心臓に爆弾をかかえていることも顧みず、再びリングへと帰っていくのだった。

冒頭のザ・ラムの活躍ぶりを描くシーンから20年の時が経って、オッサンが咳をする音が響くところから、時間の経過とラムの衰えがわかるところが秀逸です。

主演のミッキー・ロークは1980年代に「ナイン・ハーフ」を始めとする映画で活躍し、イケメンの代表格だった俳優ですが、子供の頃からボクシングをやっていたのをきっかけに、その後プロボクサーに転向して、ヘタレなパンチを「猫パンチ」とバカにされていたあたりから、何だか変な方向に行っちゃったようで、その後もいろんな映画には出ていたみたいですが、パッとした活躍をしているふうではなかったみたいです。

それが、この「レスラー」で見事に復活して、まさに作品の主役であるランディの姿とダブって、涙が流れまくりで号泣モノの映画です。

引退に追い込まれそうなほど力は衰えてしまったけれども、自分自身の居場所はそこにしかないし、今までもまさにそこで生きるために生きてきた。そんな人間が、再びその場所で命を燃やす決意をする。そういうストーリーってつい熱くなってしまいますが、アメリカ人もそんな話が大好きな人が多いんじゃないかと思います。

それで、「レスラー」を見る限りでは、ミッキー・ロークの身体が見事にレスラーの体型になっていて、それがどこまで役作りなのか地がそうなのかわからないくらい板についています。以前のようなイケメンという感じではないけれど、貫禄がついたというか、年季が入った感じが役柄にピッタリ。

しかも、試合のシーンがものすごくアツい! あの猫パンチのミッキー・ロークなんかじゃなくて、正真正銘の「ザ・ラム」になりきっているところに引き込まれてしまいます。バトル感が半端ないです。しかも、レスラーとして動きが堂に入っているというか、戦って技をかけるシーンなんかだけじゃなく、控室から登場してリングに上がるまでの動きや、その後のパフォーマンスなんかも板についていて、これはもうプロレスラー以外の何者でもないという仕上がり具合になっているのがすごいです。

そして、リングを降りれば今度は等身大のオッサンになっている。オッサン力が全開状態です。実際のミッキー・ロークは銀幕やリング以外ではどんな感じだったのだろうかと想像してしまいます。

試合のシーンもすごいけれど、この映画の見どころは、そのミッキー・ロークの役作りや演技に加えて、プロレスラー同士の控室でのやり取りまでしっかりと描かれていることで、それがどこまでリアルなのかどうかは別として、試合をする対戦相手同士が、リングでのシナリオや技の動きなどを打ち合わせて、リングに上がっているところなんかがわかって興味深いものがありました。

主役には当初、ニコラス・ケイジが予定されていたらしいのですが、アロノフスキー監督はずっとミッキー・ローク推しだったようで、ニコラス・ケイジは主役を辞退したということみたいです。アロノフスキー監督としては、あるいは単に役に似合いの人間を探しただけなのかもしれません。あるいは、ミッキーにラムの役を我が事のように演じて、それによって本人も復活してほしいといった思いがあったのかもしれません。

これは本当かどうかはわからないけれど、ニコラスもミッキーに復活してほしいという思いがあって、身を引いたということですが、もしそうだったらカッコいいですね。リングの外でも乱闘、じゃなくてドラマがあったんですね。

そんな経緯があったうえで、全員の思いが一致した結果、この熱くて素晴らしい、まさに奇跡のような作品が出来上がったのだと思うと感動してしまいます。そして、ベルリン国際映画祭で金獅子賞をとったほか、いろんな賞も受賞しまくりです。

泣ける。

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