【ミッドナイト・イン・パリ】ノスタルジックな雰囲気の中で、本当の自分を見つけ出す時間の旅
世界的なアーティストたちが集まっていた全盛期のパリにタイムスリップして、自分自身の夢や生き方に目覚める若い男性の数日間を描いた作品です。
パリ以外にもニューヨークだのミラノだの、アートの中心地が分散している今と違って、この映画が取り上げているパリは、まさに古き良き時代。ノスタルジックな雰囲気が漂う映画です。
【原題】Midnight in Paris【製作年】2011年【製作国】アメリカ、スペイン【上映時間】94分
【監督】ウッディ・アレン【脚本】ウッディ・アレン【撮影】ダリウス・コンジ
【キャスト】オーウェン・ウィルソン、マリオン・コティヤール、レイチェル・マクアダムス、キャシー・ベイツ
ハリウッドで脚本家として活躍するギルは、婚約者のイネスやその両親と一緒にパリに旅行する。イネス達はフランス料理とパリ観光を堪能するが、ギルは小説家への転身を夢見ていて、せっかくのパリ観光も上の空のようすです。
そしてディナーの後、イネスが知り合いのポールたちとダンスを楽しみに行くと、ギルは独りでパリの町を散策しながらホテルに帰ろうとします。ところが迷子になって街角で途方に暮れるギルの前に、一台の古めかしいクルマが停まって一緒にパーティに行こうと誘われるのです。
到着した先は古いカフェで、周囲はみんなレトロなファッションに身を包んでいる。そして、小説家のフィッツジェラルドやヘミングウェイと出会う。タイムスリップ先は1920年代のパリだったのです。
そして、ヘミングウェイの紹介で、有名な女性詩人で美術収集家のガートルード・スタインに、ギルの小説を読んでもらうことになります。
1920年代の黄金時代に、ピカソ、ロートレック、ダリ、マン・レイなど、自分が好きなそうそうたる芸術家たちと出会ってすっかり興奮したギルは、小説を書き上げて認められたいと思うようになるわけです。
目次
芸術家のソックリさんたちを観るだけでも楽しい
監督はウッディ・アレンで、映画の最初に延々とパリの街並みを映し続けて、よっぽどパリが好きなんだろうな、それほどパリが魅力的な街なんだろうと感じさせられます。
パリの町は行ってみると実は汚いなんて話をよく聞きます。僕は行ったことがないのでわかりませんが、この映画で見る限りはとても素敵な街で、ギル同様にずっと住んでみたいと思ってしまいます。
そのパリの街並みと同時にこの映画の見どころは、やっぱり当時の芸術家たちのソックリさんたち。登場した時点でこれは誰なんだろうと予想するのが楽しいです。とはいえ、ソックリさん選手権というわけではないので、顔が瓜二つに似ているというほどではないけれど、確かにピカソはこんな感じだったんだろうなとか、ヘミングウェイの話はずっと聞いているとクドくて話が長いなとか、ダリはやっぱり変わり者だなとか、それだけ観ていても楽しい映画になっています。
女性詩人のガートルード・スタインを演じている女性は、どこかで見たことがあると思ったら、「ミザリー」の主役を演じていたキャシー・ベイツでした。
細かいことを言うと、ネットで調べてみたら映画で設定された時代と、登場人物たちの年齢なんかが微妙に違っているみたいですが、そもそもタイムスリップ自体がありえないことなんで、細かな違いに目くじらを立てるよりも、雰囲気を楽しんだほうがいいっていうことだと思います。
乗り越えられない価値観の違いだってある
ギルはいわゆる「面倒くさい男」で、フィアンセであるイネスの父親とレストランで政治の議論を始めようとするし、学者であるポールという男性と芸術に関するうんちくでマウントを取り合ったりと、なかなか負けず嫌いな人間です。
一方のイネスは父親が企業経営者で富裕層。結婚後の新居用に家具屋へ母親とギルとともに出かけますが、2万ドルする椅子をみて「安いわね」と母親と言い合うような価値観。そんなこともあって、ギルとイネスは価値観が合っていない感じで、本当にうまくいくのかと最初から不安になる展開です。
そんな時に自分が大好きなパリの芸術家たちに出会い、さらに、アドリアナという女性と出会って恋に落ちたことで、これまで自分の価値観や本当にやりたいことへの欲求を押し殺しながら、生きてきたんじゃないかと気づくわけですね。
そして、自分は過ぎ去った黄金時代にあこがれていたけれど、人間は自分の現在に不満をもって別の時代に行きたいと考えるもので、そんな幻想は捨てなければいけないと決意するのでした。
自分と価値観が違う人たちの中で無理に幸せを望んでも、それは難しいんだから、自分の価値観に合う人とか、あるいは自分の夢を追ったほうが、幸せな人生を送れるんじゃないのかと、映画を観ていて第三者的には思うわけです。でも、いざ当事者になってみると、そんな当たり前のことをつい忘れちゃうことが人間にはよくあるんですよね。
ちなみに製作国がアメリカとスペインで、なんでフランスじゃないのかと思ったら、監督がアメリカ人なのだから当然ですが、登場する人物も、セリフが多いヘミングウェイやフィッツジェラルド、ガートルード・スタインはアメリカ人だし、ピカソとかダリとかブニュエルとかはスペイン人だったりするんですね。の