【ボーン・アイデンティティ】マット・デイモンの想定外にハイレベルな格闘シーンに圧倒される

映画やドラマの面白さの要素の一つに、なーんかごく普通で平凡に見える人物が、実はメッチャ強いとか、超アタマいいとか、そんな意外性を発揮するというのがあると思います。

この映画も一見普通の人にしか見えないボーン役のマット・デイモンが、実はとんでもなくスゴいヤツだったという展開で、観ている人がどんどん作品の世界に引き込まれてしまいます。

まあ、ただ、映画の冒頭で銃に撃たれて夜中に海に浮かんでいる人間が、普通の人であるわけないんですけどね。じゃあ、一体この男の正体は何なのか?

とにかく、アクションの迫力が凄くてまさに手に汗握るシーンの連続で、興奮しました。

その「ボーン・アイデンティティ」の感想・レビューです。

【原題】The Bourne Identity【製作年】2002年【製作国】アメリカ【上映時間】119分
【監督】ダグ・リーマン【脚本】トニー・ギルロイ、ウィリアム・ブレイク・ヘロン【撮影】オリヴァー・ウッド【音楽】ジョン・パウエル
【キャスト】マット・デイモン、フランカ・ポテンテ、クリス・クーパー、ブライアン・コックス

嵐の夜の地中海で海面を漂流していたところを、奇跡的にたまたま通りかかった漁船に救われた一人の男。

背中には2発の銃痕があり、皮膚の下にはメモリーカプセルが埋め込まれていた。意識を取り戻した男だが、記憶喪失になっていて自分が誰なのかわからない。

2週間後に漁船が漁を終えて港につくと、男はメモリーに記録されていたチューリッヒ銀行を訪れて貸金庫に預けられていたものを手にする。それは偽名で作成された数冊のパスポート、多額の現金、そして銃だった。

そこで自分の名前がジェイソン・ボーンだと知る。

ボーンは自分自身が何者なのかを知るために、アメリカ大使館を訪れます。しかし、ボーンの行方を探すある組織が、スイスのアメリカ大使館にもすでに手配を回していて、発見されたボーンはいきなり追われる身となってしまう。

なぜ追われるのか、誰に追われているのかわけがわからないまま、ボーンは偶然居合わせたマリーという女性に、2万ドルでパリまで車で連れて行ってくれるように依頼。そのまま二人はトラブルに巻き込まれていく。

身体が勝手に動いて敵を倒してしまう圧倒的な格闘能力。相手が話す言語に合わせて数カ国後を自由自在に操る語学力と頭脳。レストランの客席を見回しただけで、誰がどんな武器をもっているかわかる状況判断力。そして驚異のドライビングテクニック。まさに「人間兵器」と呼ぶにふさわしい能力をもつ暗殺者であるボーン。

ただ、この人間兵器には唯一の決定的な弱点があった。それが彼の現在の状況を招いてしまっているわけなのでした。

まずはやはりアクションシーンが見応えがあります。

原作の小説だと舞台はたぶん米ソ冷戦時代で、この映画ではもっと現代寄りに作り直されていると思うんですが、作品中にもあんまり最先端の武器なんかが出てこなくて、その分だけ戦い方も生身の人間の筋肉が動いて血が流れるという感じで、生々しさが格闘シーンに迫力を与えているんだと思います。

この作品を見るまでは、マット・デイモンってそれまであんまり強そうじゃなくて、どちらかというとちょっと詰めが甘くてドジを踏むような役のイメージがあったので、この映画を見てびっくりしました。

さらに、赤いミニでパリの街中でカーチェイスを繰り広げるシーンがすごい。狭い路地を疾走し、階段を駆け下りて、道路を逆走する。圧倒的なドライビング・テクニックで追手のパトカーや白バイを振り切る。さすがにこれはマット・デイモンじゃなくて、プロのドライバーが運転しているんじゃないだろうか。

そんなに性能も状態も良くないくて、ハンドルが右にブレるミニが、最後にはパトカーをブッちぎってしまうというのは、これも一見ごく普通の若者に見えるボーンが、思わぬ能力を発揮することのメタファーなのかなと思います。

さらに、次々と現れるCIAの刺客たちを相手に、戦いを繰り広げていきます。スピーディなまさに息をもつかせぬ展開で、最後まで一気に観てしまうのが、この作品の魅力だと思います。

ところで、自分が誰なのかわからない。自分がいったい誰でどんな状況にあるのかを知りたいというのは、人間として当然の欲求で、それがわからなければ頭をかきむしるほど悩ましいはず。その謎がだんだん明かされていくのも、この作品の見どころ。タイトルにもなっている「アイデンティティ」を探すわけですね。

この作品はロバート・ラドラムの「暗殺者」という小説をもとに映画化されていますが、「自分が誰だかわからない」という点では、実は、この小説にはヒントになったネタがあるようです。

1880年代のアメリカで、ボーンという名前の牧師がある時記憶喪失になり、3ヵ月後に気がつくと別の町でブラウンという名前で日用品店に勤めていたんだそうです。さらに、原作者のラドラム自身が一時的な記憶喪失にかかった経験もあり、それらをヒントにジェイソン・ボーンというキャラクターが生まれたわけです。

さらにびっくりするのは、ダグ・リーマン監督の父親がNSA(米国家安全保障局)という米国防省の情報機関に関係する人物だったのだそうで、実際に国際的なスパイ事件にも関わっていたらしいです。

記憶喪失といい、国際的なスパイの裏側といい、まさにホンマモンだからこそのリアリティもこの映画にはあったわけですね。

ところで、ボーン(Bourne)という名前は、「小川」(小さい川)という意味や、「限界」「領域」「目標」という意味だったりするみたいですが、イギリスあたりでよくある名前なんだそうで、なんだ小川さんかよ。でも、街ですれ違うごく普通の若者の小川さんが、実はCIAによって作られた人間兵器だと考えると、これはすごいです。

それで、マット・デイモンが主演に決まる前、監督はブラッド・ピットに主演をオファーしていたみたいです。残念ながらブラピは他の映画に出て、ボーンは断ったみたいです。

でも、僕はこれで正解だったんじゃないかと思います。ブラピが主役だと「小川さん感」に欠けるじゃないですか。「伊集院」とか「竹野内」とかいう名字の方が似合いそうです。それにブラピが強くても、ただカッコいいだけじゃん。普通な感じがしません。

ごく普通の小川さん、アメリカやイギリスで言えばそこらを歩いているような普通の若者のボーンさんが、戦い始めたらメチャクチャ強いから面白みがある。それまで、あんまり強そうに見えない、ごく普通の若者っぽいマット・デイモンが主役だったから、意外性が出た。え、マット・デイモンってこんなに凄かったっけ? そこにも大ヒットの秘密があったんじゃないかと思うんですけれど。

この作品は1988年には、テレビドラマ化されていたようです。

ちなみに、僕はよく自分で勝手に思い込みをしてしまう勘違い野郎なんですが、「ボーン・アイデンティティ」という作品名から、事件現場で発見された骨(ボーン)のDNAから、被害者の身元(アイデンティティ)を割り出す科学捜査官を、マット・デイモンが演じているサスペンス・ミステリー映画だと勝手に思っていました。マット・デイモン頭いいし、それはそれで面白そうじゃないですか。面白くないですね、失礼しました。

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