【へレディタリー/継承】繰り返し見ると怖さが倍増する作品(ネタバレあり)
ホラー映画の恐怖シーンといえば「エクソシスト」を思い浮かべる人も多いと思いますが、それを彷彿とさせる、脳みそに焼き付くようなトラウマ級の衝撃的なシーンがいくつかあって、とてもヤバい映画です。絶叫上映会というのが行われたらしいですが、恐ろしすぎてシーンとしてしまったというエピソードが、その怖さのレベルを物語っています。
ほんと、笑っちゃうくらい怖いです。
その「へレディタリー/継承」の感想・レビューです。
【原題】Heredlitary【公開年】2018年【製作国】アメリカ【上映時間】127分
【監督】アリ・アスター【脚本】アリ・アスター【撮影】パヴェウ・ポゴジェルスキ【音楽】コリン・ステットソン
【キャスト】トニ・コレット、ミリー・シャピロ、アレックス・ウルフ、アン・ダウド、ガブリエル・バーン
目次
祖母の死をきっかけに恐ろしい事件が
造形作家のアニーとその夫であるスティーブ、そして高校生の長男のピーターと小学生の娘チャーリーの4人家族が主人公です。
物語はアニーの母であるエレンが闘病の末に亡くなって、その葬式の朝からスタートします。父がピーターとチャーリーを起こして4人で葬儀へ出かけます。
葬儀にはなぜか知らない人も数多く参列していて、アニーは戸惑いながらも挨拶のスピーチをして、エレンは普通とは違うタイプの人間だったみたいだと振り返ります。
葬儀が終わった後、ある日、学校で友人からパーティに誘われたピーターが、母のアニーに車を貸してほしいと頼むと、なぜかアニーは妹のチャーリーも一緒に連れていけというのでした。そこから話が急展開を迎えます。
そして、思いもよらなかった結末に向けてストーリーが展開していきます。
脳裏に焼き付くトラウマ級の怖いシーンが
全編で重苦しい音楽や効果音が使われていて、重苦しい雰囲気に包まれながらストーリーが進行していきます。そして、前半と後半にまさに身の毛がよだつようなメチャクチャ恐ろしいシーンが描かれていて、怖いです。これまで、いろんなホラー映画を見てきましたが、その中でもトップクラスに怖かったです。
それと、前半はチャーリー、後半はアニーの演技が圧倒的に恐ろしくて、これも不気味で目に焼き付きますね。二人の演技力が映画の怖さの源泉にもなっています。
それで、この物語の前提にあるのが祖母エレンと一家の秘密です。実は祖母エレンがある秘密結社の一員で、息子を利用してある計画を実行しようとするんですが、息子が自殺してしまって計画が失敗に終わります。そこで、今度はその代わりに娘であるアニーの子供たち、つまり自分の孫を利用して計画を実現しようと画策しますが、その途中でエレンが死んでしまうんです。
普通ならそれでエレンの企みは終わってしまうはずじゃないですか。ところが、この映画はそこから物語がスタートして、エレンが画策した計画が最後までずっと続いていくのです。何で続いていくのだろうか?というのがこの映画の隠れされたテーマです。
「へレディタリー/継承」というタイトルなんですが、「遺伝を受け継ぐ」という意味や、「王位継承」みたいな意味もあるようですが、
その両方がこの映画では描かれているんです。
エレンの娘であるアニーは、父や兄が精神疾患をきっかけに死亡し、その原因がどうやらエレンにあったことを感じていて、理性の面ではエレンに反発して戦っています。そして、セラピーに参加してエレンが自分を操ろうとしていることや、自分の兄が自殺したことなどを告白して、戦いに打ち勝とうとしています。
ところが、無意識のうちにエレンが仕組んだ筋書きに沿って、いつの間にか行動しているふしがあります。自分自身の意志で動いていると思っても、実は「遺伝」によってコントロールされていたのではないか、アニーはそれを自分が夢遊病を患っているからだと考えているのですが。それは遺伝なのか、それとも別に理由があるのか?
映画のストーリー全体も実はエレンが死んでしまったにもかかわらず、彼女が描いた筋書きが進行していくのです。エレンの意志は確実に生きて動いている。つまり、本人が死んでも遺伝的に続いていくという、そこに「遺伝」という意味での継承が行われているということなのでしょう。
あるいは秘密結社が影で動かしているのかもしれないけれど、どっちにせよエレンの意志は途絶えることが有りませんでした。
もう一つは家族の物語。婆さんが死んでも家族もあまり悲しんでいる様子がない。それだけじゃなく、この家族はなんだか一緒に笑ったり泣いたりするような関係が欠けているような感じが伝わってきます。家族としてもバラバラな感じがする。それは何でなんだろうという。
父親がわざわざ間を取り持たないと、お互いに口も利かなさそうな雰囲気で、笑ったりもしない。そんな家族関係を描き出している。映画の前半で家族にとって恐ろしい事件が起きるんですが、普通ならお互いに支え合うんだと思うけれど、お互いに沈黙しているというのが不思議であり不気味でもあります。
娘の顔つきや「コッ」という音が超ブキミ
アニーは祖母とギクシャクした関係で、それが原因でセラピーに参加したりしている。アニーの父と兄は精神障害を患っていたという設定で、アニー自身も夢遊病だということになっています。実は母エレンに操られていたという設定なのかもしれません。
アニーの娘であるチャーリーはエキセントリックなタイプで、葬儀場でニコリともせずにチョコを食べている。それが高じて不気味としか言いようのない行動をとる。にこりともしないし、あまり口も利かない。自分の世界にこもって不気味なオブジェを造っているような子供です。口の中で舌を「コッ」と鳴らす癖があるんだけれど、それがこの作品中の後半でとっても恐ろしい意味をもつようになってきます。
息子のピーターも授業中に女の子を後ろ姿を眺めているような男の子。あんまり活発という感じではないが、友達と一緒にマリファナを吸うくらいの社会性はある。
父は影が薄い。この作品の中では一番普通の、ちゃんとした大人なんだけれど、影が薄いです。
よく見ていないと結末がわからなくなるかも
この映画を最初に観たときは、めっちゃ怖くて最後まで釘付けでした。最後まで怖いシーンが続くのでつい観ちゃうんだけれど、でも正直な話、見終わってよくよく考えてみると、全体的にわからないことだらけだったんですよね。1回観ただけではそのストーリーがきちんとわからなかった。2回目に観てみてなんとなくわかった感じですね。
この物語の軸となっているのは、エレンが自分の息子を利用してある計画を実行しようとしていたのだけれど、それが失敗したので、今度は孫のピーターやチャーリーを利用しようとしていることです。
よく注意していないと、ちょっとしたシーンとか映像を見落とすと、それぞれのセリフや場面は何を意味しているのか考えないと、ストーリー展開がわからなくなりそうです。
単に怖い映画を見たで終わってしまったらもったいない。二度見、三度見を前提で観たほうが、楽しみが増える映画なのかなと思いました。