【ウィッチ】開拓時代のアメリカで孤立した家族を襲う恐怖とは

この作品で主人公のトマシン役を演じるアニャ・テイラー=ジョイは、女性チェス・チャンピオンの人生を描いたドラマ『クイーンズ・ギャンビット』でも主人公のエリザベス役を熱演していました。

『ウィッチ』は『クイーンズ・ギャンビット』の5年前に公開された作品で、アニャはこの時19歳ですが、年齢よりまだ幼い感じがします。その可愛らしい少女と家族に降り掛かった、過酷な運命を描いたホラー映画です。

最後の最後はそういうオチかいという結末が待っているんですが、アニャのファンならば必見ですし、初めてだという人も怖がりながら楽しめる映画です。

【原題】The Witch / The VVitch: A New-England Folktale【製作年】2016年【製作国】アメリカ、カナダ【上映時間】93分
【監督】ロバート・エガース【脚本】ロバート・エガース【撮影】ジュアリン・ブラシュケ【音楽】マーク・コーヴェン
【キャスト】アニャ・テイラー=ジョイ、ラルフ・アイネソン、ケイト・ディッキー、ハーフェイ・スクリムショウ

町を追放された家族を襲う不可解な現象

物語の舞台は1630年のアメリカ・ニューイングランド。メイフラワー号でピューリタンの移民がイギリスからアメリカにやってきて、その10年後の話ですね。それ以前から少しずつ、イギリスから新天地を求めてアメリカに移住した人々もいたようですが、彼らが住み着いて町を作り、少しずつ人口が増え始めてきた時代の話です。

町の人達の服装が、レンブラントの「夜警」という絵の登場人物たちみたいなので調べてみたら、レンブラントは1606年生まれなので、ちょうど時代的には同じころの話ですね。

ニューイングランドに住んでいたウィリアムの一家は、町の人々と諍いを起こして、裁判にかけられていました。裁判になった理由は不明ですが、ウィリアムは宗教的な信念が強く頑固であるため、結局町から追放されることになってしまいます。一家は町を捨てて自分たちの土地を探し始めます。

そして、森のそばに手頃な土地を見つけて、そこに小さな家を建てて住み始めるのです。家族はウィリアムとキャサリンの夫婦、子供たちは長女トマシン、長男ケイレブ、次男・次女の双子であるマーシーとジョナス、そして生まれたばかりの3男サム。

一家がそこに住み始めて、馬、羊、ヤギ、犬を飼い、しばらくしたある日、トマシンが赤子のサムの子守をしている間に、サムの身に突然の事件が起きてしまうのです。それを機に一家の上に不可解な出来事が起こり始めて、やがて悲劇に巻き込まれていくのです。

信心深かったはずの家族が崩壊の危機に

『ウィッチ』というタイトルの通り、家族に降りかかる異変の原因は、トマシンが魔女だからなんじゃないかと家族が疑い始めたこと。家族の中でお互いの信頼関係がどんどん壊れていくというところが、この映画の恐ろしいところです。

さらに、世間から孤立して自分たちしかいないはずの場所で、恐ろしい出来事が起こり始めて、そして、ラストに向けてけっこうショッキングなシーンもあり、かなりドキドキしてしまいます。

ところで、1630年当時はアメリカでまだ開拓がメチャクチャ進んでいたわけでもないと思います。自分たちが住んでいる場所とネイティブアメリカンが住んでいる場所を除けば、ほとんどが未開の地だったわけで、それだけに町の人々と決別して家族だけで生きていくというのは、よっぽどの理由と覚悟がなければ出来ないことだったと思います。その理由って一体何だったのか、作品の中では描かれていないのでわかりません。

そもそも、自分たち以外に人が住んでいないような場所で、全て自給自足で生きていくというのが考えられないです。

追放のシーンではネイティブ・アメリカンたちの姿も映ります。小さな町は板塀で周りを囲まれていて、門が閉ざされています。塀の外には危険が溢れていて、そこに放り出されてしまったら、どうなるかもわからない。そして、実際に恐ろしい状況に巻き込まれていくわけですね。

宗教的な強い信念をもって大西洋を渡ってきた者たちの一員だけに、ウィリアムは信仰心の篤い男として、また妻も敬虔なキリスト教徒として描かれています。それだけに、物語が展開する間、やたらとキリスト教に対する信仰を口にするのだけれど、ところが、それが見ている間にだんだん鼻についてきて、ウザい感じがしてきました。

しかも、ウィリアムは信念をもった有能な男なのかと思ったら、どうもそうではなさそうなタイプだというのがだんだん見えてきます。一家を満足に食わせていくことが出来ず、薪割りをするしか能がない。

そして、妻のキャサリンもいつも自分の不幸を嘆いているタイプで、町を出て生きることが想像以上に大変だったし、夫が実は甲斐性がなかったということもあるんだろうけれど、一緒にいるとくらい気持ちになりそうなタイプです。娘のトマシンに対しても決して優しい感じではありません。

また、双子の弟妹は何故かトマシンに対して敵対心を抱いていて、ちょっと感じが悪い。

唯一、長男のケイレブはトマシンと仲がいいんだけれど、少しずつ女性に対する興味が湧き出してきた年頃で、トマシンの胸元をチラ見してドキドキしちゃったりするんですね。

そんな家族がサムの事件をきっかけに、お互いに疑心暗鬼に捉われるようになっていくんですけれど、敬虔なキリスト教徒のはずだったのに、夫婦間や子供たちとの間の信頼関係が、いとも簡単に壊れていってしまうのです。そんな口先と行動とが食い違っているすき間に、魔の手が忍び寄ってきて、やがて悲劇が起こってしまうわけです。

でも、人間的な弱さがあるからこそ、宗教にもすがってやっと生き延びているという状況にあったということですね。

とんでもない場所で生き延びていくのは、並大抵ではない。怖いですよね。

怖い映画だからこそ引き立つ主人公の魅力

ウィリアム一家が移ってきた土地は森に囲まれているんだけれど、そこには元々何かが住み着いていたのです。そんな危ない土地に足を踏み入れてしまった彼らに、恐ろしい出来事が降り掛かってくるのです。

ちょっと時代が違いますけれど、ホラー映画の傑作である「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」も、森に棲む魔女の伝説を描いた作品で、森に対する本能的な恐怖心みたいなものがあるからこそ、こういう映画も存在するんだろうと思います。

怖い映画だからこそ、主役であるトマシン役のアニャ・テイラー=ジョイの可愛さがとても引き立つとともに、こんなにキレイなのに、家族から誤解を受けてひどい仕打ちを受けるトマシンが可哀想という、同情とともに多少のSな気持ちになって、最後まで目が話せない作品です。

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