【隔たる世界の2人】アカデミー短編実写映画賞を受賞

この「隔たる世界の2人」は、2021年のアカデミー短編実写映画賞にノミネートされた段階で、とても楽しみにして観ましたが、期待を裏切らない面白さでした。そして、見事に受賞を果たしています。

この作品はアメリカで黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警察官に殺されたことに象徴されるような、黒人を不当に殺害する事件が多発していることに対して、抗議するために作られた作品ですね。

テーマは重いですが、作品自体は短いし、演出も深刻な感じじゃなくて、あんまり構えなくてもパッと見られるような作りになっています。

その「隔たる世界の2人」の感想・レビューです。


【原題】原題:Two Distant Strangers【製作年】2020年【製作国】アメリカ【上映時間】29分
【監督】トレイボン・フリー、マーティン・デズモンド・ロー【脚本】トレイボン・フリー【撮影】ジェシカ・ヤング【音楽】ジェームス・ポイザー
【キャスト】ジョーイ・バッドアス、アンドリュー・ハワード、ザリア

売れっ子グラフィックデザイナーの黒人男性・カーターが、女性と出会って彼女の部屋で一夜を過ごしたわけですね。それで、男性のほうは朝に目が覚めて女性のアパートを後にしようとするんです。ところが、たまたまアパートの建物の前にいた警察官に声をかけられたのをきっかけに、何もしていないのに警官に殺されてしまうんです。

そして、気づくと再び女性宅のベッドで目が覚める主人公。同じようなことが何度も繰り返されて、本人はタイムループによって、自分が何もしていないのに、同じ警察官に繰り返し何度も殺されていることに気づくわけですね。

カーターは犬が待っている自分の家に帰りたいだけなのに、どうすればそれが果たせるのか?

死のループから抜け出せるのか?

2020年には「ブラック・ライブズ・マター」運動が非常に盛り上がりましたが、警察官による不法な殺害をテーマにした映画です。

それで、この映画の主人公も何度も警官に殺されて、何度も同じ悪夢を見ているような感覚なんだと思いますが、殺されるっていうのは、やっぱりものすごい恐怖感とか痛みとかを感じるんだと思うけれど、それを何度も繰り返すっていうのは、自分がその立場だったらちょっと勘弁してほしいと思います。

もちろんカーターも同じ気持ちなので、そのループから抜け出すためにいろんな手を使うわけなんだだけれど、さてどうなるのか?

カーターのほうは売れっ子のグラフィックデザイナーで、ファッションもイケているオシャレな青年という設定で、履いているパンツはカルバン・クラインだったりします。彼の部屋で犬が待っているシーンが映るんだけれど、なかなか素敵な部屋に住んでいます。街ですれ違う人たちにもていねいに接するような青年なんだけれど、黒人だというだけで白人警官から不当に扱われてしまうわけですね。

原題は「Two Distant Strangers」で、グーグル翻訳だと「2つの遠い見知らぬ人」と訳されましたが、いろんな点で接点がない2人のストーリーです。

住んでいる世界も考え方も違う。白人警官は「こんなに長く黒人と話をしたのは初めてだ」というセリフを言うんだけど、それだけ世界が隔たっている。そんな二人がなぜ何で殺したり殺されたりする、ある意味で濃密な関係になってしまうのか? 不思議ですよね。

主人公を演じるジョーイ・バッドアスという人はラッパーなんだけれど、俳優としても活躍し始めている人らしいです。

一方、酷薄なタイプの白人警官を演じているのがアンドリュー・ハワードという俳優で、これが憎たらしい演技をしています。最近ではクリストファー・ノーラン監督の「テネット」にも出演しているようです。

「Furbo」というドッグカメラが登場していて、遠隔操作で犬にエサを与えたり話しかけたりできるみたいです。ペットを飼ったことがないので、そういうロボットの存在も知らなかったけど、面白いですね。

タイムループが使われている意味って何?

ある映画紹介サイトに寄せられたコメントの中に、「社会問題がテーマの映画でループを使うのは必然性が感じられないし、使い方もチープ」という意見がありましたが、僕の意見はまったく正反対で、この映画でループを使って大成功だったと思います。

何でタイムループを繰り返すストーリーにしたのかというと、これはやっぱり、白人警官による不当な逮捕や殺害が何度も繰り返されるということを、作品として訴えたいということだと思います。そして、たとえどれだけ不当な扱いを受けようとも、俺たちは絶対に何度でも立ち上がるぜという、不屈の精神を表しているわけですね。そう考えると、面白みのあるストーリーの中に強い主張を描いて、テーマと表現がうまくマッチしている点が、この映画の素晴らしいところです。

ところで、同じ日やシチュエーションを何度も繰り返す「タイムループ」をテーマにした映画って、けっこうたくさんあるみたいですね。

パッと調べてみました。

「ラン・ローラ・ラン」
「LOOPER/ルーパー」
「ハウンター」
「アバウト・タイム 愛おしい時間について」
「プライマー」
「時をかける少女」
「デジャヴ」
「今日も僕は殺される」
「タイムマシン」
「バタフライ・エフェクト」
「ミッション:8ミニッツ」
「トライアングル」
「NEXT ネクスト」
「リピーターズ」
「プリデスティネーション」
「ファイナル・ガールズ 惨劇のシナリオ」
「パラドクス」
「LOOP ループ 時に囚われた男」
「僕のワンダフル・ライフ」
「ハッピー・デス・デイ」
「オール・ユー・ニード・イズ・キル」
「パーム・スプリングス」
「明日への地図を探して」

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