【タイトル、拒絶】伊藤沙莉が今度はデリヘルのスタッフに。

「獣道」のAV女優役や「全裸監督」でのヘアメイク役などを演じてきた伊藤沙莉が、今度はデリヘルのスタッフ役で主演しているのが、この「タイトル、拒絶」です。

山手線らしき線路の脇で撮影された冒頭のシーンから、上半身はブラのみ、下はリクルートスーツのスカートという姿で、自分の人生がクソみたいだと吐き捨てるようなモノローグを繰り広げる姿にドキッとさせられます。

その「タイトル、拒絶」の感想・レビューです。
【原題】タイトル、拒絶【製作年】2020年【製作国】日本【上映時間】98分
【監督】山田佳奈【脚本】山田佳奈【撮影】伊藤麻樹
【キャスト】伊藤沙莉、恒松祐里、佐津川愛美、般若、でんでん、池田大

就活に失敗してデリヘル嬢を目指したが…

就職活動をしたものの失敗続きでどの会社からも採用されず、ついにはデリヘル嬢として働こうと考えて体験入店したカノウ(伊藤沙莉)だったが、初めての仕事で対面した相手がキモすぎて、その場から逃げ出してしまう。

自分にはデリヘル嬢は務まらないと思い知ったカノウは、立場を変えて、デリヘル嬢を支えるスタッフとして働き始めることになるのだが、そこにはクセが強すぎる女性たちの集まりで、常識はずれな人間模様が繰り広げられるのだった。

女性の視点から女性の生きる姿を描く

冒頭のシーンで伊藤沙莉がちょっとセクシーな格好で登場するし、舞台はデリヘル事務所ということなんですけれど、内容的にはそこで働く女性たちの人生や人間模様を描くのがテーマで、下心いっぱいで見始めた僕の期待は見事に打ち砕かれたのでした。

プロデュースをしているのが、「獣道」「全裸監督」で監督を務めた内田英治。劇団□字ック(ロジック)という劇団を主宰する山田佳奈の舞台作品を、本人がメガホンをとって脚本・監督を務めた作品です。女性の視点から女性の生きる姿を描いているためか、あまり男性の下心に応えるような作品ではないです。

伊藤沙莉は「全裸監督」ではAVの撮影現場で働く、女優に対して理解あるヘアメイク担当の役を好演していました。そして今回はデリヘル事務所のスタッフ役。立ち位置的には似たようなポジションの役柄です。一応まだ「普通」をキープしている女性の視点で周囲を眺めて、風俗で働く女性たちの「普通」からはみ出した人生を描き出す、カメラ的な役目です。

冒頭のモノローグで、小学生時代の学芸会で演じた「カチカチ山」を引き合いに出して、自分はうさぎ(デリヘル嬢)たちを支えるたぬき(自分=スタッフ)の役を担うことを決意し、「現在の最悪な自分と決別するために、再び間抜け役を買って出ることにします」
と宣言します。

その時点でカノウは、自分が生きてきたそれまでの人生があまりに平凡で、しかも、就活がうまく行かなくて最悪だと思いこんでいるわけです。

伊藤沙莉は主役としての出演で、「この役は誰にも渡したくなかった」と言っている熱の入れようだったみたいですが、そこに集まった個性的すぎるデリヘル嬢たちを演じる、他の女優の皆さんの熱演のおかげで、すっかりその存在がかすんでしまうほどなんですよね。

壊れかけている女やすでに壊れてしまった女、人生をほとんど捨てている女…。店の一番売れっ子であるマヒル(恒松祐里)も、やっぱり深い心の闇を抱えて、危ういバランスの中で生きているわけです。

そして、女だけではなく男のほうもクソみたいな人生を送っている。一見少しはマシなように見えるハギオ(池田大)でさえも、人生が腐りかけている。

終盤ではついにそんなお互いのお互いに対する不満が爆発して、修羅場を演じることになるのです。最後にそれぞれの運命が動き始めます。

「普通」の人生なんてどこにもない

「クソ」だと思いながらも、どこかで信じてきた「普通の人生」の価値みたいなものが、一挙に崩れ去るのを目の当たりにして、カノウは号泣するしかない。普通ってなんだ? 普通なんてどこにもない。

そして号泣しながらも、歩き続けるしかない、生きていくしかないとカノウは決意するのです。「私の人生に、タイトルなんて必要なんでしょうか?」と言うカノウ。「この人はこういう人」「この人の人生は所詮こういう人生」と決めつけても、他人だけじゃなく自分自身だって、本当はどうなるのか、どんな人生になるのかは推し量れない。「タイトル、拒絶」という作品名は、作者のそういう考えから付けられたものかも知れません。

劇中歌の「燃える海」を唄う女王蜂のアヴちゃんの歌声と、伊藤沙莉が号泣する声とが、ハモっているように聞こえてきて、胸が締め付けられるような気持ちになります。

ちなみに、伊藤沙莉は朝ドラの「ひよっこ」に出ていたし、恒松祐里やでんでんは現在放送中の「おかえりモネ」に出演中で、佐津川愛美は「梅ちゃん先生」「スカーレット」、森田想は「エール」に出ていて、けっこう朝ドラ出演比率が高いですね。

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