【サラブレッド】2人の美少女が抱く危険な計画とは?
主人公は二人の少女。そのうちの一人であるリリーが、母親の再婚相手に殺意を抱くようになり、その心理の変化や葛藤を、幼なじみの友人との関係の上に描いた作品です。サスペンスタッチでなかなかダークな雰囲気の映画です。
タイトルは「サラブレッド」ですけれど、馬の映画ではないんです。主人公の一人アマンダが馬に執着しているんですけれど、本物の馬は冒頭のシーンと途中で一種出てくるだけ。
サラブレッドというタイトルは、どちらかというと「いいとこのお嬢さん」みたいなセレブの血統を表す意味でつけられたのかと思いますが、物語が進むにつれて「いいとこのお嬢さん」っていうけどそれって一体何? ちょっと怪しいよねという、微妙な皮肉が込められたタイトルなのかなと思います。
ちなみに、サラブレッドって英単語のスペルは知らなかったんですが、「Thoroughbred」って綴るんですね。「th」の発音だとは知らなかったです。
【原題】Thoroughbreds【公開年】2018年【製作国】アメリカ【上映時間】92分
【監督】コリー・フィンリー【脚本】コリー・フィンリー【撮影】ライル・ヴィンセント【音楽】エリック・・フリードランダー
【キャスト】オリヴィア・クック、アニャ・テイラー=ジョイ、アントン・イェルチン、ポール・スパークス、フランシー・スウィフト
中学3年生の時に父親を亡くしたリリーは、大金持ちと再婚した母親と一緒に継父の豪邸に移り住んでいました。
そこに、しばらく会っていなかった幼なじみのアマンダが訪ねてきます。アマンダの母が大学受験をする娘のために、リリーに家庭教師を依頼したのでした。二人は再会して少しずつ以前のように打ち解けはじめます。
リリーは継父との関係がギクシャクしていて悩んでいましたが、それを見たアマンダは、彼女に父を殺したらどうかとアドバイスするのでしたが…。
目次
「いいとこのお嬢さん」が抱く危険な計画
幼なじみの「いいとこのお嬢さん」の2人が主人公。リリーの継父を殺すかどうかをめぐる、二人の少女の危ないやりとりがテーマです。ストーリー自体はわりとシンプルでアクションシーンなどがあるわけでもなく、劇的な展開とか謎解きとかもなくて、たんたんとした展開ですが、二人の主人公のやりとりによる心理やストーリーの変化で、ハラハラさせられるのが面白いです。
さらに、二人の少女のどちらかに共感できるのか、できないのか。あるいは両方とも受け入れるのか拒否するのか。それによっても、映画の印象が全然違ってくると思いました。
二人は子供のころから乗馬に親しんできたような良家の子女で、とくにリリーは何部屋もあるお屋敷に住み、使用人が何人もいて電動芝刈機で芝を刈っていたり、家にプールがあったり、高級車を乗り回していたりする。アメリカのお金持ちが住む豪邸の中を、おお凄いと思って観ていました。
リリーは子供の頃に乗馬をしていた自分の写真を家に飾っていて、そのことから、もともとお金持ちのお嬢さま育ちなのだろうと察しがつきます。ちなみに、この写真はラストにも出てくるんですが、それも映画全体を印象づける重要なシーンです。
リリーはファッションなんかも気を使って、金持ちらしい外見や雰囲気を出しているけれど、アマンダはあんまり見た目にこだわらないタイプ。性格はかなり違うけれど、幼なじみの二人が再会した結果、二人の運命がさらにどう変わっていくのかが見ものです。
微妙に変化する2人の関係に注目
リリーは現在、継父の豪邸に住んでいるんだけれど、物語がはじまってすぐに豪邸や財産が彼女のものじゃないことや、それに引け目と不満をもっていることがわかってきます。自分に対して何かと難癖をつけてくる底意地が悪い継父のことを、憎らしく思っているんだけれど、その気持ちが「殺意」という言葉にまでは、結びついていなかったわけですね。むしろ最初はそうした考えを否定しているわけです。
ところが、思っていることは何でも言い合えるような幼なじみのアマンダと再開し、彼女に「殺せば?」と言われて、リリーの漠然とした気持ちが「殺意」という言葉と結びついてしまうのです。リリーが自分自身に対して曖昧にしてきたことを、アマンダがストレートに言葉に出してしまって、そこから物語が動き始めるわけです。
ただ、アマンダは正当な理由がなければ殺人はだめだとは言うんだけれど、相手のハートに火をつけてしまったあとでは、後の祭りです。
そして、最後に事件が起きるんですが、そこに至るまでの友人同士のやりとりや振る舞いが、この映画のポイントです。お互いの一つひとつの言葉、表情、行動が相手にどんな反応をもたらして、それがどういう変化や結果に結びついていくのかを、細かく描き出しているので、そこから2人の心理を想像していくのが、この映画の面白さだと思います。
リリーが深夜に暗闇のなかで目を開くシーンで、彼女の中の何かが変わったのがわかる。とても印象的です。アニャ・テイラー=ジョイが美しくて、美人が悪事を働こうとするとドキドキしますよね。それが映画のミステリアスな感じをとても高めています。
作品の後半で継父に指摘されるんだけど、リリーは周りにいる人間はたとえ幼なじみの友人であっても、自分のための引き立て役にしか見えないタイプ。少し付き合えばそんな性格が見え見えなんだけれど、表立ってそういう態度は取らなず、そつなく周囲とうまくやっているかのように見える。でも根本的には自分の思い通りにならないと気が済まない。
しかも、いい学校に通っていて、有名企業のインターンもしているという話だったのに、実は提出したレポートが盗作で学校を退学になったりしています。いろんな嘘をつきながら生きているわけです。
久々で会ったアマンダに対しても、どこかよそよそしい態度で接してくる。そして、母親から時給で頼まれた家庭教師を「こなそう」として、そのことをアマンダに見透かされます。
継父はリリーの進学先を勝手に決めてしまい、しかも、卒業した後は援助しないことを宣言します。そうなると、もはや「お嬢様」ではなくなってしまうリリーは、継父に対する殺意を押し止めることができなくなってしまいます。
一方のアマンダは、子供時代から喜怒哀楽の感情を感じられない、人格障害だか発達障害だかをもつ女の子。実際、この作品全編を通じて作り笑いや泣き真似をする以外は、ほとんどニコリともしないタイプで、物事の核心をズケズケと言ってしまう性格みたいです。しかも、愛馬のサラブレッドにまつわる事件を起こして、周囲と壁がでてきてしまっています。
そんな二人が再会したときに、アマンダはリリーの継父に対する態度から、リリーが継父を見下していると見抜いてしまいます。そこから小学生時代に、お互いに本心で言いたいことを言っていた頃の関係に戻るのです。そのことが、最後の事件を起こす原因になっていくわけです。
ちょっとネタバレ。相当ひどい結末
アマンダの家には馬の写真やオブジェ、競技でとったメダルなどが飾られていって、本当は馬好きなのがわかります。アマンダの家を訪れたリリーは、アマンダが殺した馬の写真を見たと言います。実は最初のシーンに登場するサラブレッドが怪我をしていて、その馬に幼い頃から乗っていたアマンダは、安楽死させようとしたのです。それが映画の冒頭のシーンです。
実際に死なせた経緯そのものはアマンダの語りでしかわからないのですが、これが事件として地元で大きな騒ぎになってしまうわけですね。たぶん、この事件がリリーとアマンダが疎遠になった理由だったのだと思います。
リリーの言葉に対して、アマンダが愛馬を死なせた話をしようとすると、リリーはいったん遮る。でも、アマンダはそのまま、どれだけ凄惨な経験だったのかを表情も変えずに一部始終を話し続けるんです。これはリリーが継父を殺したいと思っているのを見透かして、もう一度きちんと考えたほうがいいと、暗黙のうちに釘を刺しているシーンなのでしょう。
ところがリリーは逆に、自分たちで継父を殺そうと持ちかけます。アマンダはサラブレッドを殺した経験があるので、生き物を殺したのなら、人間を殺すのも平気じゃないかと思うわけですね。というか、自分たちで殺そうといいつつアマンダに殺させようと思いつく。このシーン、庭にある石のチェスで馬の頭をアマンダが動かしていたりするんですが、リリーはアマンダを駒としか思っていないという、心理の表現なのかも。
ちなみにこのシーンで、その後アニャが主演をしたドラマの「クイーンズ・ギャンビット」を思い浮かべてしまいました。
それはさておき、アマンダは当然のように殺人を断わります。そして、二人は地元の薬の売人に殺人を依頼することを思いつくのですが、それに失敗。リリーは家にやってきたアマンダに対して、自分たちでやろうと言います。しかし、感情にまかせてやるな、やるなら正当な理由がないと諭すんです。そして、インターンも学校のことも嘘だとなじる。
さらに、リリーはタバコを吸っているところを継父に見つかって、その後の援助をしないと宣言されます。
リリーは継父にひどいことを言われて涙を流します。リリーは嘘つきだけれども、まだ高校生の微妙な年頃で自分を理解してくれる相手がほしいわけですね。それなのに傷ついたリリーに対してアマンダから優しい慰めの言葉がなく、逆にアマンダは泣き真似だというのです。リリーは本物だと抗議し、逆にアマンダに対して、自分の実父が死んだときに一緒に泣いてくれたのは本当かと問うと、アマンダはさらに追い打ちをかけるように、嘘泣きだった答えてしまいます。それを裏切りだと感じたリリーは、最後の感情の歯止めがきかなくなって、結末へと突入していくわけです。
最後はリリーが自分で継父を殺して、その間アマンダに睡眠薬を飲ませて眠らせておき、罪をアマンダに着せようと計画します。馬を殺したことはクラスメートなどには周知の事実なので、アマンダが犯人だと皆が思うのではないか。リリーはそう考えて、アマンダに罪を着せようと考えたわけですね。
そして、物事はリリーの計画通りに進むわけです。
リリーはアマンダとの出会いで、変わったのか、それとも、元々あった本性があらわになったのか、そこはわかりません。
映画の最初の方で出てきた、馬に乗ったリリーの写真が、最後のほうでも出てきますが、その写真とそれを眺めるアマンダの表情を見た後で、さらにラストのリリーのセリフを聞くと、酷すぎて、何ともやりきれない気持ちになります。