ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから|レズビアンの女子高生が主人公のラブコメ

主人公はレズビアンの中国系女子高生で、美人の同級生をめぐって同じクラスメートの男子とちょっと変わった三角関係に陥る。そのストーリーをコメディタッチで描いています。

ラブコメなんだけど、甘すぎず、バカっぽくなく、最後に温かい気持ちになれる、素敵な映画です。

オープニングのイラスト風アニメが、鉄拳の作品みたいな感じで、ちょっと心温まる雰囲気です。アニメの内容は、人間は元々一心同体だった自分自身の片割れを求めていて、それが愛だという話で、「ハーフ・オブ・イット」という映画のタイトルはここから来ているんだと思います。

【原題】The Half of It【公開年】2020年【製作国】アメリカ【上映時間】105分
【監督】アリス・ウー【脚本】アリス・ウー【撮影】グレタ・ゾズラ【音楽】アントン・サンコー
【キャスト】リーア・ルイス、ダニエル・ディーマー、アレクシス・レミール、コリン・チョウ

アメリカの地方都市の高校に通う中国系女子高生エリーは、クラスメートのレポートを何人分もこなしてお金を稼ぐ成績優秀な女の子。教会で日曜日にオルガンを弾いたり、ギターでオリジナル曲の弾き語りもしてしまう、マルチな才能の持ち主でもあります。

そんなある日、彼女の文才を見込んで同級生のポールが、ラブレターの代筆を頼んできます。エリーはいったん断ります。実は彼女はレズビアンで、ポールが好きな相手・アスターに密かな片思いをしていたのです。しかし、家の電気代の支払いに困っていたエリーは代筆を引き受けることに。そして、ラブレター代筆を越えて、ポールへの恋愛指南が始まるのですが…。

1回だけのつもりだったラブレターの代筆が…

まず設定にオリジナリティがあって、主人公は中国系で、この映画の舞台となるアメリカの地方都市では、どうやらマイノリティな存在のようです。廊下でぶつかられて転んでも周囲から無視されてしまうような存在として描かれているんですよね。しかも同性愛者(もちろん隠しているんですが)ということで、主人公のエリーはいろんな才能をもちながらも、少数派の極みみたいになっています。

そんなエリーにラブレター代筆を頼むポールは、アメフト部に所属していて、一見、いわゆる脳みそが筋肉で出来ているタイプ。それに対してアスターは小説や映画が好きな知的なタイプなので、最初からハンディが大きすぎます。

最初に代筆したラブレターで、エリーは映画のセリフを借用するんですが、アスターに見破られてしまうのです。でも、えーなに、アスターって自分と趣味似てるんじゃない?と気づいたエリーは、ラブレター代筆にのめり込んでいきます。エリーはポールがすぐにフラれるだろうと高をくくっていたのですが、ポールとアスターはデータをして、まずは友だちとして付き合おうという話になる。そしてエリーが頑張れば頑張るほど、ポールとアスターを結びつけてしまうジレンマに陥るわけです。

それと同時に、ポールに成り代わってアスターとスマホのチャットを交換する間に、お互いの理解が深まっていったりする。遠隔操作というか、ポールをはさんでアスターと付き合っているみたいな感じになるわけです。もちろん、アスターは裏にエリーがいるとは知らないんですけど。

そんなとき、あるきっかけで、エリーがアスターとドライブして、山の中に湧く天然の温泉に浸かるシーンがあるんですけど、そこでお互いに理解者を得て至福の時間を味わうような場面が、とても素敵です。

この関係がどんな結末を迎えるのか、興味津々になります。

恋愛相談が友情に深まっていくストーリー

好きな相手との会話をピンポンにたとえて、会話のラリーを続けることを教えたり、エリーはポールの人生の教育係みたいな存在になるんですが、その立場が途中で微妙に変わってきたりするところが、とても面白いです。ポール自身もは少しずつ人間的にも成長していき、そして、二人の友情も深まっていくわけですね。

登場人物がけっこういいヤツ揃い。ポールは犬みたいにいつも走っている印象なんだけど、まっすぐなタイプ。アスターもイケメンじゃないからダメだとかすぐに断ったりせず、ポールの気持ちを受け止める優しさがある。

そして、エリーは賢いだけではなく、アスターの進路をアドバイスしたり、ポールが家業がレストランで、タコスづくりに自信があるのを知り、ポールに内緒で新聞や雑誌に取り上げてもらえるように手紙を出したりしています。友だちの人生を応援してくわけです。

恋愛を通じてそれぞれの人生が開けていく

エリーの父親は中国系の優秀なエンジニアで、この町にシステム開発の仕事でやってきたのですが、英語がうまく通じず仕事で挫折したことと、妻(エリーの母)が亡くなったことで、引きこもりのようになってしまいます。そのおかげでエリーは父に代わって仕事をしたり、レポート代筆でお金を稼いでいる。高校の教師はエリーの学力を高く評価して、有名大学への進学を勧めているのですが、エリーは父のことや学費のことが心配で、地元で生きていこうと考えています。ただ、このアメリカの地方都市では、中国系はマイノリティなので、なかなか高校のクラスメートにも馴染めず、八方塞がりな日々を送っていたわけです。

ところが、ポールとの交流を通じて、最初は便利な存在として扱われていたエリーが、少しずつ仲間として受け入れられるようになったり、行き詰まった進路が少しずつ開けてくるのです。

人生が開けてくるのはポールもアスターも同じ。実家の手伝いをして人生を終えるのかと思っていたポール。自分の絵の才能に自信が持てず、高校を卒業したら結婚して家庭に収まると思っていたアスター。思い込みがこの出来事を通じて解けていって、それぞれが自分の進む道を見つけていくことになります。

ということで、単に三角関係を描いた恋愛モノというだけではなく、3人の成長もしっかりと描いています。最初は「面白いのはこれから」という日本語のサブタイトルがついていて、ちょっと邪魔くさい感じがしますが、日本で作品を配給する側の思いも何となくわかります。主人公がちょっと地味めの女の子だし、タイトルが「ハーフ・オブ・イット」だと、内容が想像しにくいので、なかなか観てもらえないという危惧があったのかも。そこで、とにかく観てみれば「面白い」ということを伝えたいという考えがあったんだと思います。さらに、「これから」というのは、ただのラブコメでは終わらない話だよという思いもあったのでは?

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