ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド| 仕掛け満載のタランティーノ・ワールド

クエンティン・タランティーノ監督が、自分が幼かった頃である1969年のハリウッドを舞台に、女優のシャロン・テートがヒッピーに殺される事件が発生する半年前から、その当日までの出来事を描いた作品です。

今どきは作品を観る前にある程度情報を集めてから観る人が多いので、シャロン・テート事件を知っている前提で作ったと、監督自身が言っているので、まだ観ていない方は先に調べてから観たほうがいいかも。

僕は前知識なしで見始めてしまって、しかも、そもそもシャロン・テート事件って、耳にしたことはあるけれど具体的にどんな事件だったか覚えていなかったので、ちょっと失敗しました。

【原題】Once Upon a Time in… Hollywood【公開年】2019年【製作国】アメリカ、イギリス【上映時間】161分
【監督】クエンティン・タランティーノ【脚本】クエンティン・タランティーノ【撮影】フレッド・ラスキン
【キャスト】レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、エミール・ハーシュ、マーガレット・クアリー、ティモシー・オリファント、オースティン・バトラー、ダコタ・ファニング、ブルース・ダーン、アル・パチーノ、ルーク・ペリー

主人公はちょっと落ち目のハリウッド俳優リックと、その専属スタントマンであるクリフ。昔はテレビドラマの西部劇などで主役を張っていたリックだったが、現在では悪役などを振られることが多くなり、俳優としての未来に希望が持てない日々を過ごしている。クリフはスタントマン&運転手&付き人&雑用係みたいな存在なんですが、その役割にけっこう満足しているタイプ。

そんなある日、リックの屋敷の隣にポランスキー監督と妻で女優のシャロン・テートが引っ越してきます。飛ぶ鳥を落とす勢いのポランスキー夫妻に対して、リックは引け目を感じて落ち込んでしまいます。

一方、クルマを走らせていたクリフは、ヒッピーの若い女の子をヒッチハイクで拾い、彼女が住んでいるという古い撮影所の跡地まで送り届けます。そこにはチャールズ・マンソンという男が、ピッピーの女性たちが共同生活を送っていました。何やら怪しい気配を嗅ぎつけたクリフが、撮影所に住んでいるはずの古い知り合いに無理やり会おうとしたことから、ヒッピーたちと険悪な雰囲気になるのです。

その後、リックにイタリアで撮影する西部劇への出演依頼が舞い込み、イタリア西部劇を見下しているリックでしたが、気が進まないながらも現地に赴いて数本の映画に出演。半年の後にロスに戻った二人を待っていたのは、とんでもない事件だったのでした。

見る人を飽きさせない映像と音楽が満載

シャロン・テート事件のことはまた後でするとして、この作品は映画の撮影シーンやその舞台裏などを織り交ぜながら、ストーリーがあるような、ないような、ちょっとユルい感じで展開していきます。何なんだこの映画はと思いつつも楽しめて、つい最後まで見ていて2時間41分という時間が長く感じませんでした。事件のことをちゃんと把握していたら、さらに面白かったはず。

その理由として、一つには映画ファンへのサービスというか、映画ファンならついニヤリとしてしまいそうな、シーンやエピソードが散りばめられているから。ディカプリオが演じる昔の映画のパロディだったりとか、大ブレイクする前のブルース・リー(もちろん演じるのはソックリさん)が登場したり、それだけ並べてみるだけでも面白いです。

さらには、展開していくそれぞれのシーンの映像とか音楽とかも素晴らしいです。たとえば最初のほうの、クリフがリックを自宅まで送り届け、そこから自分の古びたオープンカーで家に帰るんだけど、華やかなネオンに溢れる街並みをクルマでぶっ飛ばすそのシーンがやたらとカッコいい。街を歩くヒッピーの女の子たちがとってもキュートだったり、見ているだけで楽しいです。

そして、当時流行していた曲がガンガンかかるんだけど、それもノリが良くて各場面を盛り上げてくれています。シャロン・テート役のマーゴット・ロビーが、自宅でレコードをかけながら踊ったりするシーンもなかなかいいです。

まさに、キラキラ輝いていたハリウッドの雰囲気が再現されている感じです。

実際、この映画を撮るために、タランティーノ監督は当時の面影を残しているハリウッドの街並みを、わざわざ当時のように再現して、しかもその頃に走っていた車種を集めてきて走らせるという、大掛かりな撮影をしたというのがヤバいです。ハリウッドのキラキラした感じ。まずは、それを目にするだけでも面白さあふれる映画なのかなと思います。

ネタバレ:実はこの映画は西部劇をベースにしたストーリーだった!?

タランティーノ監督は西部劇が作りたかったのかなと思いました。まずはディカプリオを主役にした、昔ながらのセットや筋立ての西部劇ですね。架空の映画のシーンを描くことで、自分も西部劇が作ってみたかったという欲求を満足させたのかなと思います。そこに笑いの要素も織り込むことで、「こんなの撮ってみたかったんだけど、楽しんでください」みたいなチャーミングな内容にしているんじゃないかなと思います。

そして、もう一つはブラピが主役の現代風にアレンジした西部劇です。クリフはスタントマンの役ですけれど、要はリックが雇った用心棒、あるいはガンマンだという位置づけなのかなと思います。銃はもっていない代わりにやたらとケンカが強い。それで、馬(自動車)に乗っていて女を拾い、届けた先が悪役たち(ヒッピー)のアジトだったわけです。相手のアジトに乗り込んだ時に、そこに住む連中がみんな外に出てきて、侵入者にガンを飛ばすところなんかは、まさに西部劇のワンシーンみたいです。そこでいざこざが起きるけれど、そこでの因縁は持ち越しになります。

そして終盤、クリフは雇い主のリックにお払い箱にされることになるんだけれど、まさにその最後の夜、リックに襲いかかろうとするピッピーたちと対決! 自分は傷つきながらも侵入者たちをボコボコにして雇い主を守る、という展開は西部劇以外の何物でもないです。

そういうストーリー展開の中で、ブラピが大暴れしたら観客もスカッとするんじゃないか、というタランティーノのサービス精神が満載です。

といっても、若い世代の人たちだと、きっと西部劇ってほとんど見たことがないと思うので、もしかしたら、あんまりピンと来ないかも知れないですよね。

タランティーノが生み出したパラレルワールド

それで、シャロン・テート事件ですが、チャールズ・マンソンという男と一緒にファミリーをつくって暮らしていたピッピーたちのうち、4人がロマン・ポランスキー監督の家に押し入って、監督は不在だったけれど妻のシャロンと知人たちを殺害。それがきっかけで当時のフラワームーブメントという一種のカルチャーが幕を下ろし、当時の若者に衝撃を与えたという事件です。僕は後からそういう史実を知ったので、あんまりピンと来なかったんですが、きっと大事件だったんでしょう。ケネディ暗殺とかジョン・レノン暗殺とか、それくらいのインパクトがあったんだろうか? 知らんけど。

それで、本当はシャロン・テートが殺されたはずの夜、この作品では犯人たちが間違ってリックの家にクルマを入れたことから、ターゲットをリックに変更して、おかげでシャロンは殺されずに結末を迎えます。

ということは、タランティーノは「みんな、シャロンが殺されると思っていただろうけど、期待してたのと違う結末で驚いた?」とわざわざ予想を裏切ってみせるわけです。シャロン・テートが死なずに済んでハッピー・エンドという、まさに予想外の結末です。まあ、でも人が死んでるからハッピーエンドじゃないんですが。

ラッパーで映画評論家の宇多丸さんがタランティーノ監督にしたインタビューでは、シャロン・テートは事件で亡くなったことで知られているけれど、もっと生きている彼女をみんなに知ってほしかったという趣旨の発言をしています。実際、この作品中でマーゴット・ロビーが演じるシャロン・テートはチャーミングでなかなかカワイイので、つい殺されなくてよかったねと思ってしまいます。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」というタイトル通り、この作品はあくまでも架空の「お話」であって、史実の再現じゃないわけです。ある意味、ブラピが現代からタイムマシンで当時にタイムリープして、腕力で歴史を無理やり変えちゃうという、とんでもない発想の作品なのかなと思います。

ということで、この映画はタランティーノが作ったタイムマシン、あるいはパラレルワールドだった、という結論でした。

ちなみに映画のラストで、クリフが病院に救急車で搬送された直後、一人になったリックが隣の家に住むシャロン・テートの家に招待されて、酒を飲みに行きます。直前にリックは侵入者の一人を火炎放射器で焼き殺しているんですが、そんな事件はまるでなかったかのように、平然と招待に応じるのです。リックは現実の中で人を死なせてしまったことも、映画の中のエピソードと同じようにしか感じていなかったわけです。

リックの家に押し入る前のヒッピーの一人が、「あいつらはいつも映画の中で何人も殺していて、自分たちはあいつらに殺しを教わったようなものだ」と言うんですが、それを受けたオチがこれですね。映画関係者なんて、現実とフィクションがごちゃまぜになっている、イカれた人種だぜという笑いを最後にぶちかます、タランティーノらしいラストだと思いました。

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