ミッドサマー| 白昼の恐怖はトラウマになって夜眠れなくなる!


「ミッドサマー」は英語だと真夏とか夏至の意味だけど、原題の(Midsommarミィドソンマル)はスウェーデン語で夏至祭のことなんだそうです。北欧の人は冬が暗いくて寒い分だけ、夏の時期にはっちゃける傾向にあるんだろうか?

その祭りを舞台にした恐ろしいホラー映画がこの「ミッドサマー」です。祭りを体験するためにスウェーデンまで出かけた男5人、女1人の大学生が、恐怖の体験をするわけですね。

この作品とは直接関係はないですけれど、緑に囲まれたのどかな田舎の地に、白い宗教服を身にまとった人々が集まっているシーンは、どうしても20世紀末の日本で起きたカルト宗教事件も思い出されて、もはや本能的にヤバいと感じてしまいます。

【原題】Midsommar【公開年】2019年【製作国】アメリカ、スウェーデン【上映時間】141分(劇場公開版)171分(ディレクターズ・カット版)
【監督】アリ・アスター【脚本】アリ・アスター【撮影】パヴェウ・ポゴジェルスキ【音楽】ボビー・クリック
【キャスト】フローレンス・ピュー、ジャック・レイナー、ウィリアム・ジャクソン・ハーパー、ウィル・ポールター、ヴィルヘルム・ブロングレン

主人公のダニーは、精神的に不安定なところがあった妹が、両親を道連れに自殺してしまったことが、大きなトラウマとなっていた。恋人のクリスチャンはそんな心に闇を抱えるダニーの存在が重くて、別れたいんだけれど言い出せないような状況にあった。

そんなある日、クリスチャンと友人のマーク、ジョシュはスウェーデンからの留学生・ペレに誘われて、彼の故郷ホルガで行われる夏至祭を体験しにいくことになり、そこにダニーも同行することになる。

このホルガで90年ぶりに執り行われる祭りなので、せっかくなので参加しろと説得される。やがて祭りが開催されて、そのクライマックスにたどり着くまでに、彼らは恐ろしい運命に遭遇することになるのです。

楽しそうな祭りが恐怖の体験に

スウェーデンをはじめ北欧には夏至祭というのがあるんですね、知らなかった。夏至祭ではメイポールという柱を立てて、その周りで花の冠をつけて踊ったりするんだそうです。

この作品でも、舞台がスウェーデンのホルガ村に移ってからは、ダンスをしているシーンなどが出てきますが、その様子はいかにも楽しそうだし、厳粛な雰囲気の中でみんながテーブルについて食事をしたり、そういう祭りを描いたドキュメンタリー的な映画のような雰囲気もあります。

でも、そこでどんな惨劇が起きるのか、ドキドキ息詰まるような緊張感の中で見守ることになります。楽しさの中の恐怖というか、楽しさに振れ過ぎた反動としての恐怖というか。

それで、祭りが始まって比較的早い段階で、いきなりもう恐ろしいシーンが展開するんです。これは気の弱い人は見ないほうが良いレベル。ほんと、トラウマになりそうです。ホルガ村に生まれなくてよかった…。

白夜のおかげで夜の闇の中のシーンが少ない、ごく一部だけなんです。おかげで、後半の多くの場面が白日のもとで行われる宗教儀式のシーンです。

すべてが明るい白日のもとで行われ、すべてが丸見えというのは、逆に全部ちゃんと目を離さずに見ろという、アリ・アスター監督の意思が感じられます。

「明るいのに怖い」おかげで、これまでの恐怖は暗闇の中にあるというホラー映画の常識を覆したところが、ものすごく新鮮な感じがしました。

白夜で陽の光が長く明るい分、冬の闇が長く深く濃い。観ている人は否が応でも、このホルガ村が抱えている闇とか、あるいは主人公の心の闇を想像してしまうんですね。そこにこの「ミッドサマー」という映画の怖さの源泉があるのかなと思いました。

いろんなホラー映画をアレンジして独自の作品に

この作品は、スウェーデンを舞台にしたホラー映画を作って欲しいという依頼に応える形で、アリ・アスター監督が製作したものだということです。ただ、最初から夏至祭を取り上げるという話があったのでしょうか? そこはわかりません。

このミッドサマーは、キリスト教とは異なる宗教儀式をテーマに描かれていますが、アリ・アスター監督の前作「へレディタリー/継承」でも同じくカルト宗教集団の儀式が取り上げられています。その点では、アリ・アスター監督には何かそういうテーマを採り上げたくなるような、バックグラウンドがあるのかもしれません。

「へレディタリー/継承」の怖さは悪魔が登場するオカルト的な恐怖ですが、この作品はその点が違っています。

それでネタバレですが、というか、この映画のストーリーは、若い男女数人が一緒に旅行に出かけた先で、恐怖の体験をして次々と殺されていき、かわいい女の子が一人だけ助かるという、ホラー映画の定番パターンです。ただ、この作品は霊とかモンスターとか悪魔とかいった、超自然的な存在が登場するわけではなく、昔から続くしきたりや掟とか宗教儀式に基づいて、人間が恐ろしい行為をするという点が怖いですね。その点は、いわゆるホラー映画とは少し違っています。

「悪魔のいけにえ」で、監禁されている主人公の女の子が恐怖に怯えて声を上げるのを見ながら、家族で食事をするシーンがありましたが、ミッドサマーでも大勢が集まってテーブルについて食事をする場面が出てきます。さらに、ダニーが泣き叫ぶのに合わせて、村の女たちが泣きわめくシーンも出てきます。この2つの場面は、さっき書いた「悪魔のいけにえ」のシーンを、「食事」と「泣きわめく」という2つのパーツに分けて、利用した感じなのかなと思います。

また他の場面では、殺されて剥がれた皮をかぶったりするシーンもあるんですが、これも「悪魔のいけにえ」の影響だったりするのかなと思います。

もちろん、この映画は他にもいろんなホラー、スリラー、サスペンスなどからヒントを得ているんだと思います。こういうホラー映画だけじゃなく、ほとんどの映画はそれ以前に作られた作品からアイデアをもらってきて、それをバラしたり組み合わせたりして、さらに自分のアイデアや発想でアレンジしながら、新しいものを生み出していくんだというのを改めて実感しました。

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