マザー!|夫の行動にイラッとするジェニファー・ローレンスの演技が秀逸な問題作
木立に囲まれた豪邸で、不気味な出来事や事件が次々と巻き起こる、スリラータッチの作品です。
主人公を演じるのはジェニファー・ローレンスで、演技とルックス、そしてちょっとハスキーな声が素敵です。
「レスラー」や「ブラック・スワン」を作ったアロノフスキー監督の作品だし、さらに「ノーカントリー」のハビエル・バルデムも出演するというので、これはとても期待が持てるかなと思って観てみました。他にもエド・ハリスとかミッシェル・ファイファーとか凄い俳優がでているしね。
ところがその一方で、アメリカのシネマスコアという映画の市場調査会社による評価が、最低ランクのFをつけたというのが話題になったり、日本での公開予定が中止になったりという、いわくつきの作品でもあります。
【原題】mother!【公開年】2017年【製作国】アメリカ【上映時間】115分
【監督】ダーレン・アロノフスキー【脚本】ダーレン・アロノフスキー【撮影】マシュー・リバティーク【音楽】ヨハン・ヨハンソン
【キャスト】ジェニファー・ローレンス、ハビエル・バルデム、エド・ハリス、ミッシェル・ファイファー
古びてはいるけれど、きちんと手入れがされた豪邸に、詩人である夫とその妻が二人きりで住んでいます。
ある夜、そこに医師を名乗る見ず知らずの男がやってきて、夫は彼を招き入れます。妻は知らない人間を家に入れたくないのですが、何と夫は男を家に泊めてしまうのです。翌日には男の妻がやってきたり、さらにはその息子2人も現れて、そこからとんでもない事件が次々と起こり始めていくのです…。
目次
一体ホラーなのかそれともコメディなのか?
1回目に観たときは何の前知識もなく、漫然と観ていて「何なんだこれは!?」と思ってしまったよ。
作品の出だしは、スリラーというかホラーというか、サスペンスというか、謎で不気味な雰囲気の中に始まって、ストーリーが展開していきます。
夫婦が住む家に、いろんな人物が訪れて、その数がどんどん増えていく。それでみんな好き勝手を始めるんです。それで、普通のホラー映画だったら家の中で恐ろしい現象を巻き起こしている悪霊とか悪魔とかが出てきたり、何かしら理由とか原因が見えてくるはずです。ところが、この映画はなかなかそういうのが出てこないままに、話が進んでいくんです。不気味なんだけれどとらえどころがない感じです。
観ている人も、何が起きているのかよくわからないまま、どんどん人が増えてくるので困惑してしまいます。そして、この作品を見ている観客のほうでも、この滅茶苦茶ぶりは一体何なんだと、困惑してしまいます。めちゃくちゃすぎて笑ってしまうくらいです。ホラーかと思って観ていたら、コメディかなと思ってしまいました。
それで、この作品は主人公の若妻を演じるジェニファー・ローレンスの目線で進んでいくんですが、この妻も観客と同じように困惑するのですが、その原因が実は夫にあるのです。この作品を観て、まず夫に対してめっちゃイラっとしてしまいました。
夫は来る者は拒まずで、家を訪ねて来た人は誰でも中に入れてしまう、とんでもない夫なのです。そして、みんながやりたい放題の好き勝手を始めて、家の中はまさにカオスの状態になっちゃうんです。家の中で暴動が起きているみたいな感じですね。
妻からすれば、夫と二人で過ごしたかったり、知らない人が家に入ってくるのは不安だったりするだろうけれど、そういう気持ちを全部スルーして好き勝手してしまう夫には、やっぱりイラついてストレスが溜まってしまいそうです。日頃、自分でもどちらかといえば夫側のような行動をとりがちなんだけど、そんな僕でさえ、イライラしてしまう。この映画ではっきりしているのは、主人公である妻が、家で起きたいろんな出来事に心の底からウンザリしているということなんです。
そういう困惑しているジェニファー・ローレンスの姿を見るのが、もしかしたらこの映画の楽しみの一つなのかもしれないです。
ネタバレあり:夫は実は神「GOD」だった
それで、この映画には裏の設定があるらしいんです。僕は1回目に観たときは、その設定に全く気づかずに最後まで行ってしまいました。
詩人である夫は実は神、つまりキリスト教やユダヤ教でいうところの「GOD」だという設定らしい。じゃあ妻は誰かというと、タイトルが「マザー!」なので、母親だとすればマリア様ということになりそうですが、「母なる地球」だという説もある。
それで、神がこの世を作って、そこにアダムとイブの話に始まり、旧約聖書から新約聖書の物語をたどり、さらにキリスト教が世界中に広まったことで起きる、いろんな歴史上の出来事や争いなどが、夫婦の家の中で巻き起こるわけですね。
つまり、家の中で巻き起こった騒動のそもそもの原因は、実は夫である神の仕業ということですよね。自業自得というか自作自演?
要は神が余計なことをしたおかげで、この家、つまり人間世界とか世の中とかがめちゃくちゃになっていくわけです。神なんか人騒がせなだけで、本当は不要な存在なんじゃないかと、そういうことが言いたい作品なのだろうか? あるいは、世界は神による暇つぶしの遊びということなのだろうか?
もし最初から設定に気づいたら、作品に対する印象って変わるんだろうか? キリスト教圏の人だったら、最初に男が現れて次に女が出てくる、そしてその後で男の兄弟が出てきた時点で、これはアダムとイブ、そしてアベルとカインのことか、つまり作品全体もそういうことかとすぐに気づくみたいです。日本人でも鋭い人はわかるんだろうけれど、僕は全然わからなかったです。
それで、設定を知った上で、2回目に観たら印象はけっこう変わりました。話に納得感が出てきた。ただ、後半がメチャクチャでカオスなシーンが続くのは変わるわけではないし、その割にはドラマという感じが薄かったりして、ちょっと物足りない部分もありました。
アロノフスキー監督は、シネマスコアのF評価をとったことについて、「この映画はある特定の人向けに製作された作品だ」ということを、なにかのインタビューで言っているみたいです。ある特定の人って誰? 要は、一般人にはわからなくてもいいよ、という意味なのかな。僕はその特定の人には、多分入らないと思うんだけど、この作品自体は嫌いじゃないです。
作品中に登場する謎のアイテムの正体とは?
映画の中に謎のアイテムが2つ出てきます。
一つは透明なクリスタルのような石で、夫が書斎に大切に飾っているんだけれど、これって何だったのだろうか? この石は騒ぎの中で一度砕け散ってしまい、その後、死にかけている妻の体の中に、夫が手を突っ込んで取り出すんですが、これは世界を再起動させるスイッチみたいなものなのだろうか? それで、その産みの親のことを「マザー!」と呼んでいるということなんだろうか?
最後に神がこの石を書斎にセットすると、メチャメチャになった家の中がサーッときれいになり、ベッドで目を覚ますジェニファー・ローレンスの姿、つまりこの映画の冒頭の場面から再びスタートします。
ということは、つまり神はゲームをリセットして、また最初からスタートするという意味なのでしょう。とすれば、人間の歴史というのは神の遊びだというふうにも受け取れます。次は高得点とってやる、みたいな。
もう一つは妻がストレスを感じた時に飲む、黄色い液体。あれは一体何だったんだろうか? 妻は後半、それを飲まずにトイレに捨てたりするんですが、トイレに流す黄色い液体といえばアレだと思うんですけど…。