物静かな男の復讐|スペイン版アカデミー賞を受賞した傑作サスペンス
スペインのアカデミー賞である「ゴヤ賞」や「フェロス賞」で作品賞をはじめ、多くの賞を獲得した注目の映画です。
この作品は、日本ではじめて公開されたときは「静かなる復讐」、そして、NETFLIXでは「物静かな男の復讐」というタイトルで公開されました。確かに、スペイン人のラテンなイメージからすれば、この映画の主人公は物静かなタイプかなと思います。ただ、その胸の奥には怒りの火がメラメラと燃えているという。
原題の「Tarde para la ira」をグーグル翻訳で訳したら、「怒りに遅れる」という日本語に訳されて出てきましたが、よく意味がわかりません。それで、他の翻訳サイトで調べてみたら「怒りの午後」という訳になっていて、どちらかといえばこの「怒りの午後」のほうが内容に近いのかなと思いました。
【原題】 Tarde para la ira 【公開年】2016年【製作国】スペイン【上映時間】92分
【監督】ラウール・アレバロ【脚本】ラウール・アレバロ、ダビド・プリード【撮影】アルナウ・バイス・コロメル【音楽】ルシオ・ゴドイ
【キャスト】アントニオ・デ・ラ・トーレ、ルイス・カイェホ、ルス・ディアス、ラウール・ヒメネス
ある街の宝石店に強盗グループが押し入りますが、警察が駆けつけて犯人たちは、散り散りに逃げ去ったなか、唯一、犯行グループの運転手を務めたクーロだけが逮捕されて、服役します。
一方、ある日、街のバルにホセという男が現れて、やがてその店の常連になります。ホセの目当ては女店主のアナで、やがてホセとアナは男女の関係となっていくのです。実はアナは刑務所に服役するクーロの妻。ホセはある目的をもってアナに近づいてきたのでした。
クーロは8年の刑期を経て出所し、アナのもとに戻ってくるのですが、そこから物語が動き始めるのです。
目次
ちょっとネタバレ。8年がかりで犯人探し
銀行強盗事件で恋人を殺された男が、復讐を試みるという、一言で言えばそういうストーリーです。果たして主人公は復讐が果たせるのか。
主人公のホセは、宝石店に勤めていた恋人をクーロたち強盗グループに殺されて、店の経営者だった父親も植物人間にされてしまうんです。ところが防犯カメラの映像を見ても、犯人たちは目出し帽をかぶっていて、恋人に手を下したメンバーの顔がわからない。しかも、そのまま犯人たちは逃亡してしまい、手がかりがないんですよね。
犯人グループの一人であるクーロが刑務所に入って、刑期が8年。犯人に関する唯一の手がかりはクーロの存在しかない。おかげでホセは、恋人を殺した犯人探しをするのに、事件発生から8年もかかってしまうわけです。とにかくメッチャ時間をかけています。
その間にホセはクーロの妻、アナに近づいていくわけです。
ところが、それだけ時間をかけて用意周到に準備をしてきたのに、クーロもメンバーのうち誰がホセの恋人を殺した犯人なのか、わからないんです。それで、クーロはホセが犯人探しをする手伝いをさせられる羽目になるのです。そのクーロとホセの微妙な人間関係もなかなか味があって面白いです。
さらに寡黙なタイプの主人公に、この男にはどんな背景があるんだろうとか、心の中に何を秘めているんだろうとか、いろいろと考えさせられてしまいます。そして執念がすごいと思います。
復讐がすべての家族愛を破壊する
どこの国でも家族は大事にするんだろうけれど、この映画を観るとスペインはそういうのがとても強いようで、この作品の最初のほうでも、若い父親が娘のために開いたパーティで、「家族が大事」みたいなアピールがされるわけです。
でも、ホセは恋人を殺されて、家族が大事みたいな価値観の外に出てしまっている。
グループのメンバーの居場所を突き止めて、一人ひとりと対決していきます。しかし、事件から10年近くが経って、それぞれが家族や子供とともに、幸せな日々を送っているのです。メンバー本人への復讐は仕方がないとして、一緒に暮らす家族の幸せをぶっ壊しても、復讐を果たすのかどうかという、そこがこの映画の辛いところで、そういう問いを突きつけてくる作品だと思います。
特に最後のシーンは、主人公のホセも含めて、これからこの人たちはどうなってしまうんだろうという、先が思いやられる結末になっています。
スペインの刑務所事情にびっくり
びっくりしたのは、スペインの刑務所って身内と面会するときに、日本だったら金網越しに「母さんは元気にしているか?」みたいな話がやっとできるくらいですけど、スペインってたとえば収監されている夫に妻が面会にいくと、なんとベッドのある部屋に二人きりになって、男女の営みができちゃったりするんですね。夫婦面会という制度らしいですが、知らなかった。それで、その時にアナは妊娠して息子が生まれたりするんですね。世界は広いです。