アス|なぜ主人公はマイケル・ジャクソンのTシャツを着ていたのか
目次
自分たちに瓜二つの家族が襲いかかってくる恐怖
「Us」って「私たち」ってことですけど、避暑地に出かけたら「私たちにソックリ」の家族が現れて、そこからとんでもない目に会うという作品です。
「ゲット・アウト」のジョーダン・ピール監督が作ったホラー映画第2作がこの「Us」(アス)です。
【原題】Us【公開年】2019年【製作国】アメリカ【上映時間】116分
【監督】ジョーダン・ピール【脚本】ジョーダン・ピール【撮影】マイケル・ジオラキス【音楽】マイケル・エイブルズ
【キャスト】ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク、エリザベス・モス、ティム・ハイデッカー
1986年、アメリカのサンタクルーズのビーチにある遊園地で、両親と一緒に遊びに来た幼い少女・アディが迷子になる。幸いすぐに発見されるが少女は心的外傷を受けたためか、両親と普通にコミュニケーションがとれなくなってしまう。
その出来事からおよそ30年が経ち、成長したアディは夫のゲイブと子供2人の4人で休暇をとり、サンタクルーズのビーチにある別荘に出かける。そこに友人のジョシュの家族も示し合わせてやってきて、ビーチで一緒に過ごす。
その夜、2つの家族がそれぞれの別荘に帰る。アディたちが眠りにつこうとしたとき、息子のジェイソンが、誰かが家の前にきたと報せてきた。深夜の屋外を観ると、暗闇の中にまるで自分たちと同じ家族構成でそれぞれ顔も似た4人が、手をつないで立っていた。
そこから想像もしなかった恐怖が彼らに降りかかり始めるわけです。
ちょっとだけネタバレ 瓜二つの家族との格闘シーンがエグい
正体不明のもう一つの家族「Us(私たち)」が主人公たちに襲いかかってくる。こいつら一体何者なんだ? というのが、この映画のテーマです。この家族は赤い宗教服みたいなものを着ていますが、それぞれが顔も体つきも瓜二つのドッペルゲンガーなんです。映画の中では俳優たちが一人二役で演じています。
幽霊や悪魔的なものは登場しないんだけど、とにかく怖い。この得体の知れない家族が初めて登場するシーンでは、夜の闇の中で4人がなぜか手をつないで立っているんですが、それだけで怖い、近づきたくない。
この出来事は、最初はアディたちの家族に起こった恐怖体験みたいな形でストーリーが展開していくんです。ところが、時を同じくして、友人であるジョシュたちの家族にも同じことが降り掛かってきて、話がだんだん広がっていきます。それが不気味です。え、ウチだけじゃなかったの?という。
どこかの家を舞台にしたホラー映画だと、ストーリーや場面がその家の中に限定されがちですが、この映画はどんどん話が広がり局面が変わっていくので、つい見入ってしまいます。
どこからか現れた家族を撃退するためにバトルシーンが続くんですが、これもハラハラします。とにかく格闘シーンがエグいです。息子のジェイソンが自分の分身を倒すシーンなんかも、何とも言えない感じです。
しかもそれを通り越して、極限状況の中にブラックジョークを散りばめてきて、笑っちゃうような場面もあったりします。監督がコメディアン出身だからだったりするんでしょうか?
放置された長大な地下トンネルの秘密とは
このもう一つの家族がなぜ現れたのか? その秘密は映画の冒頭に出てくる「アメリカには何千キロにもわたる地下トンネルが存在する」という文にあります。この映画、実は地下にはもう一つの世界が存在していて、今回の出来事が、アメリカ政府が行った国家規模の実験がきっかけで引き起こされたものだったんです。
作品の始めの方で、ケージに入った無数の白ウサギの映像が登場しますが、その意味がわかるとゾワッとします。さらに、最後にこの映画の謎解き的な場面があるんですが、これはもうゾワゾワしてしまいます。
この映画のワンシーンで不気味な男が「旧約聖書のエレミア書11章11節」と書かれた紙を手に持って突っ立っているんですが、それってどういう内容なんだろうと調べてみました。
「それゆえ主はこう言われる、見よ、わたしは災を彼の上に下す。彼はそれを免れることはできない。彼がわたしを呼んでも、わたしは聞かない」
なんか道路沿いに掲げられている「死後さばきにあう」みたいなキリスト教の看板を彷彿とさせるんですが、不気味なオッサンの警告が、現実となって現れたのがこの映画というわけですね。
ネタバレ なぜアディはマイケル・ジャクソンのTシャツを着ていたのか
監督は「ゲット・アウト」のジョーダン・ピール。「ゲット・アウト」はホラー映画のスタイルを借りて、黒人差別への抗議を表現したわけですが、今回もそういうメッセージがあるのか?
「アス」の最初のほうでは、アディはマイケル・ジャクソンの「スリラー」のTシャツを手に入れるんですけれど、成長したドッペルゲンガーのアディの顔つきや動き、そして赤い服などを見て、「スリラー」のマイケルを思い出した人も多いと思います。どうせならムーンウォークをキメてほしかった。
さらに映画の冒頭では、テレビ画面に「ハンズ・アクロス・アメリカ」というキャンペーンの映像が映ります。これは1985年に「USAフォー・アフリカ」というアフリカの飢餓を救済するためのチャリティキャンペーンが行われ、その一環で「ウィ・アー・ザ・ワールド」というマイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーが作った曲が大ヒットしたわけですね。その流れで今度はアメリカ国内のホームレス支援などをアピールするために、市民の連帯を訴えてみんなで15分間手をつなごうというイベントが行われたわけです。それが1986年に決行された「ハンズ・アクロス・アメリカ」です。ドッペルゲンガーたちが手をつないでいるのは、そのイベントを再現しているのです。
黒人のヒーローであるマイケル・ジャクソンに成り代わって、今度はアディがドッペルゲンガーたちのヒロインとして、「ハンズ・アクロス・アメリカ」を再現しているということです。ジョーダン・ピール監督は、「いまお金があっていい思いをしている人たちの生活は、そうでない恵まれない環境に置かれている人たちの犠牲の上に成り立っているので、そのことを忘れてはいけない」という趣旨の話をインタビューなどで話しています。地上の世界で「自分たちは普通に生きている」と思い込んでいる人間たちの生活は、実は地下の世界で苦しむドッペルゲンガーたちの犠牲の上になりたっている。その人たちを救おう。これが「アス」の裏テーマだったんですね。
自分たちが「普通」だと思っている生活も、実はたまたまそちら側に生まれただけで、もしかしたら苦しんでいるドッペルゲンガーの側に生まれたかもしれない。ドッペルゲンガーは「私たち(アス)」だ、というのがタイトルの意味なのかなと思います。
カルト宗教を題材にした映画のようでもあり、ゾンビ映画的な怖さもあり、その合せ技という感じですが、裏にはそういうジョーダン・ピール監督の思いがありました。
エリザベス・モスの演技がめちゃ怖い
「透明人間」で主演したエリザベス・モスが、ジョシュ家の母親役&分身の役で登場しますが、演技が超怖くて、映画の恐ろしさをさらに盛り上げてくれています。とくに、鏡を見ながらメイクするシーンが怖い。一番怖いメイクシーンかもしれないです。
お面をかぶっている少年、ジェイソンは「20世紀少年」という漫画のキャラクターみたいで、不気味です。