バクラウ 地図から消された村|僻地の村人たちvs謎の殺人集団。想定外の面白さでカンヌ審査員賞受賞の怪作

ブラジルのある田舎の村を、謎の殺人集団が襲撃しまう。しかし、その村は決して手出しをしてはならない場所だったのです。

久々にこんなクセが強い映画を見ました。ホラー映画のようでもあり、SF映画の要素もあり、昔のアメリカの西部劇っぽくもあり、いろんな要素がミックスされていて、ありきたりの映画とは違う世界観で作られています。

カンヌで審査員賞を受賞していたり、2020年の年間ベストムービーにランクインしたり、高い評価を受けているのも納得の面白さです。

●【原題】Bacurau【公開年】2019年【製作国】ブラジル、フランス【上映時間】131分
【監督】クレベール・メンドンサ・フィリオ、ジュリアーノ・ドルネレス【脚本】クレベール・メンドンサ・フィリオ、ジュリアーノ・ドルネレス【撮影】ペドロ・ソテロ【音楽】マテウス・アウヴェス、トーマス・アウヴェス・ソウザ
【キャスト】ソニア・ブラガ、ウド・キア、バルバラ・コーレン、トーマス・アキーノ、シウヴェロ・ペレイラ、カリーヌ・テレス

舞台はバクラウというブラジルの田舎の村。村の長老であるカルメリータという老女が亡くなり、その葬儀のために、都会で医療の仕事をしているらしいテレサが戻ってきます。村では大掛かりな葬儀が執り行われます。

ところがその夜に、夜中に馬の群れが近隣の牧場から逃げてきたり、翌日やってきた給水車が銃で撃たれてタンクに穴をあけられたり、見慣れないバイクの二人連れが現れた後に住民が銃撃を受けて殺されたり、不可解な事件が次々と起こり始めます。

実は外部から謎の武装集団が現れて、村に対して襲撃を仕掛けはじめていたのです。外部からの襲撃に対して、住民たちが反撃を始めるのです。

現代社会から取り残された場所?なのに最新テクノロジーが普及

何が面白いって、まずは登場する村と設定のギャップが凄い点です。バクラウは田舎の村で、しかも、村人たちは最初のんびりとカポエイラをしたりしています。ところが、いざ敵が現れるとその集団が豹変して、一致団結して戦い始める。そんな意外性がこの映画の面白さなのだと思います。

そもそも設定が摩訶不思議な感じ。バクラウは架空の村なんですが、周りは荒野に木やサボテンがわずかに生い茂るけっこうな田舎です。食べ物にハエがたかってくるような場所で、お世辞にも裕福といえるような村ではなさそうです。そこに、つい最近まで村の語り部みたいな老婆が存命していたということで、現代社会から取り残された伝説の村なのかなと、一瞬思ってしまいます。

そんな田舎の村に突然UFOみたいな謎の飛行物体が現れたりするのです。

ところが、頭上に現れたUFOを見たオッサンは、あれはドローンだと落ち着いた様子で判断するくらい、普通に最新テクノロジーに慣れ親しんでいる。村には携帯電話を使っている人もいるし、自分たちの村の場所を子どもたちに教えるのにiPadを普通に操作しています。でも、そういう現代社会では当たり前のはずのものを、このバクラウで見かけると、「えっ、それ使ってるの?」と驚いてしまうくらいの僻地なので、そのギャップに驚いてしまいます。

そもそも、亡くなった長老のカルメリータの葬列を先導するトラックの荷台には、大型ディスプレイが積まれて、そこに亡くなったカルメリータの笑顔が大写しで映っているという、超シュールで何だかとんでもないことになっています。その葬儀で村の人々が歌う曲が切ないのを超えて、おどろおどろしい雰囲気を醸し出しています。

セルジオ・ヒカルドという人の歌なんですが、怨念のようなものも感じます。

祭りの準備中には市長候補者が、大型LEDディスプレイを積んで大音量を出す選挙カーで選挙活動にやってきたりする。しかも、投票は網膜スキャンで実施するとか、その市長候補がツケで村の娼婦を買っていくとか、一体どういう世界観だよと思ってしまいます。

その土着な感じと、ちょっと近未来な感じが不思議な割合でミックスされていて、変な面白さを醸し出しています。

しかも、村の人たちはラテンの血が流れているので喜怒哀楽が激しく、あけっぴろげで、都会のように何かを取り繕っているようすもない。いろんなものがむき出しになっている感じなんです。

そんな村をどんな理由があって、外部から殺人集団が襲撃してくるのか、まったくわけがわかりません。それどころか、その襲撃に対する村の人たちの反応が見ものです。彼らの対応ぶりを見ていると、現代社会という感じがしません。

ネタバレあり、この村は実はとんでもない先頭集団だった

バクラウの秘密が隠されているのが歴史資料館なんですけれど、まず、こんな田舎の村に歴史資料館があることが意外。そして、ここで何を陳列しているのか? 突然この村を訪れたバイクの2人がその見学を勧められて、アドバイスを断り去っていくんだけれど、この2人はぜひ見るべきでしたね。この村はこれまで何度も外部からの襲撃に対抗して、打ち勝ってきた歴史を持つのです。その際に使われた武器も展示されている。それが今も使える状態で保存されている、いわば「武器庫」の役割も果たしているわけです。

しかも人材も豊富。葬儀のために戻ってきた若い男は、都会では殺人の達人としてYou Tubeで有名になっていたりする。村の皆でその映像を観るんだけど、だからといって警察に通報する人もいない。ていうか、そもそも警官や保安官というのがこの村にはいないように思えます。

さらに、応援のために村外れから呼び寄せたルンガは、これがあと10年すると、まるで「マッドマックス怒りのデスロード」のイモータン・ジョーにでもなりそうな勢いの男ですが(もちろん無関係ですけど)、案の定、修羅場で大活躍というか大暴れというか、ヤバさ全開になります。

その結果、襲撃をかけてきた武装集団はリーダー以外、全員の首を切り落とされて並べられ、村人の前に晒されるんですが、とにかくやることが強烈です。ラストのほうで殺人集団のリーダーに対する村人たちの反応や顔つきが、これが映画で一番、心を揺さぶられたところでした。

スマホが普及しても根源的な部分は変わらない

IT機器を普通に使うような現代の話なんだけれど、でも、語り部でありシャーマンっぽい存在であるカルメリータが、つい昨日まで生きていたのです。スマホをいじったりして、迷信みたいなものとは縁が切れたかのように振る舞っているけれど、人間の本質的な部分は急に変わるわけじゃない。その部分を描きたかったのかなと思います。

それに対してバクラウにいる村人たちを見ていると、いろんな血や文化が混じり合っているのがわかります。さらに、体を売る人たちや殺人者、盗賊までどんな人間でも受け入れる懐の深さがある場所。そんな村だからこそ、バクラウの人たちは、人種に関係なく、同じ村にいるんだから結束して戦うハートを持っているわけです。そういうハートというか、精神的なDNAとでもいうものを伝える役割を、死んだ長老のカルメリータが果たしてきたということなのでしょう。そして、一致団結して戦ったことで、そのDNAがさらに受け継がれていく。

一方の殺人集団の間では、ちょっとした肌の色や人種の違いに細かくこだわるような会話もあって、そのおかげで仲間割れまでする。とても対照的です。

このバクラウという村のモデルになっているのは、ブラジルの「キロンボ」と呼ばれる、逃亡した奴隷やお尋ね者などが集まってできた集落なのだそうです。だから、いわゆる普通の街とは考え方も常識も違っているみたいです。そういう集落がたくさんあったらしい。

そういう村が、外からの襲撃に対応するというのが、昔のアメリカの西部劇みたいな感じですよね。牧場から逃げてきた馬の群れを見て、牧場を調べに行くと一家皆殺しにされていて、それによって敵の存在を知って、村が一致団結して敵と対決するというのは、まさに西部劇の展開です。

アメリカでは西部劇の映画は製作される数が大幅に減ってしまったようです。それに対してブラジルでは、今こういう西部劇っぽい映画が作られているみたいです。

村に戻ってきたテレサは最初に何か薬を飲まされて、その後も村人が口にしたりするんだけれど、あれは何だったんだろう? いろんな謎を残しつつ、胸がザワザワするような作品を久しぶりに見ました。

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