コーヒー&シガレッツ|コンセプトは音楽アルバム?取り留めのない会話を何回でも楽しめる作品

タバコを手にコーヒーを飲みながら、テーブルを間にはさんで、とりとめもない話をする。そんなエピソードが11編。

初対面だったり、どちらかに用事があったりなかったり、人と人のいろんな出会いや関係を描いて、飽きさせずに楽しませてくれるジム・ジャームッシュ監督のオムニバス作品です。

【原題】Coffee and Cigarettes【公開年】2003年【製作国】アメリカ、イタリア、日本【上映時間】97分
【監督】ジム・ジャームッシュ【脚本】ジム・ジャームッシュ【撮影】トム・ディチロ、フレデリック・エルムス、エレン・クラス、ロビー・ミュラー【音楽】イギー・ポップ
【キャスト】ロベルト・ベニーニ、スティーヴン・ライト、スティーヴ・ブシェミ、イギー・ポップ、 トム・ウェイツ、ケイト・ブランシェット、メグ・ホワイト、ジャック・ホワイト、ビル・マーレイ

初対面の二人の男、久々に会った従姉妹同士や親友同士、近所のオッサン二人とその子供、たまたま入ったカフェの客とその店員など、いろんな関係の二人、三人がコーヒーを飲みタバコを吸いながら、ちょっとした会話を繰り広げます。

ストーリーはなくても雰囲気や言葉のテンポが楽しい

話の内容のほとんどはたいして意味がない。最初の「変な出会い」というエピソードでは、「歯医者行きたくねえ」、「じゃあ、俺が代わりに行くよ」みたいな、ほとんどコントみたいなトークで、あんまり意味はないんだけど、ボーッときいていていしっくりくるというか、たのしい。

しかもエピソードの中には、ほんの少しの間だけ会話を交わした結果、なんだかバツが悪くなったり、変な空気になってして後味悪く別れたり、単純にハッピーじゃない終わり方をするものも多くて、面白いです。

この映画って、レコードやCDのアルバムみたいな発想で作られているんだと思います。短編の一つひとつが楽曲みたいなもので、一貫したストーリーはないし、それぞれのエピソードの間にはお互いにほぼ関連がない。でも、アルバムを通してのコンセプトみたいなものがあって、一本芯が通っている。音楽って同じものを何度でも楽しめるように、この映画も会話を音楽みたいに何度でも楽しめる。ストーリーらしいストーリーはないけれど、各シーンの雰囲気や言葉のノリやテンポを楽しむ。それがこの映画なのかなと思います。

チェスの攻防のような言葉のやりとり

11あるエピソードは、人によって自分はこれがいいという好みがあると思います。それぞれのやり取りはなんてことはない内容だったりするんだけれど、11篇それぞれに面白みがあります。

ミュージシャンのイギー・ポップが、同じくミュージシャンのトム・ウェイツを誘ってコーヒーを飲むのが最初の「変な出会い」というエピソード。お互い初対面なのでしょう。イギーが「ジムでもイギーでもいいよ、イギーと呼んでくれ」と言うと、「おれはどっちでもいいよ、ジム」と返すトム・ウェイツが、一筋縄では行かない人物だというのを表しています。その二人のやりとりが何だか噛み合わないのが逆に後を引きます。

別のエピソードでは、男女の双子がメンフィスの街にやってきてカフェに入る。ブシェミがウェイター役を演じていて、仕事を怠けて二人を相手に無駄話を始めて、実はエルビス・プレスリーは双子で、晩年は偽物のほうが表舞台に立っていたというトンデモ情報を披露します。そのやり取りの中で、ブシェミの質問に双子がYES/NOで答えるシーンがあって、返事をするタイミングや内容が一致したりしなかったり、リズミカルな音楽を聴いているような感じで、楽しい。

ケイト・ブランシェットが自分自身とその従姉妹という一人二役を演じるエピソードも素晴らしいです。映画女優であるケイトが滞在するホテルのラウンジに、従姉妹がやってきて久々に再会するという設定。本人役は素の自分を出しているのに対して、従姉妹役はちょっとスレた雰囲気で、ちゃんと別人になっているのがプロを感じさせます。

ほぼ全てのシーンでテーブルの柄がチェス盤を思わせるチェック柄。モノクロームの画面には白黒の格子柄がアクセントになって画面に映えるというのもあるでしょう。そして、登場人物による言葉のやり取りをチェスになぞらえているのでしょう。ああ言えばこう言う、という会話がゲームのようであったり、攻防のようであったり、ときにはスローなダンスのようであったり。それを観戦者として楽しめるのがこの映画なんだ思います。

コーヒーとタバコの組み合わせは過去の遺物に?

初対面の人と話をする時って、それこそ最初の「変な出会い」のエピソードみたいに、お互いに緊張して間が持たなかったりするわけだけれど、そんなときにタバコとコーヒーって、人と会うときに緊張を和らげたり、間をもたせてくれたり、とっても大事な役割を果たしていたと思います。

この作品の最初のエピソードである「変な出会い」が撮影されたのは1986年で、そこから2003年までパラパラと撮られて来たみたいです。1986年の段階では、タバコは確かに体に悪いけど、みんな町中で好き放題に吸っていた時代。そして、ほんのちょっと前までは、コーヒーを飲みながらタバコを吸うというのは、リラックスするための手段としてポピュラーだったし、ちょっとした文化みたいなものだったわけですよね。

そういうちょっと肩の力が抜けた雰囲気が、この映画の良さなんだろうと思います。これがタバコと酒との組み合わせだと、映画の内容ももう少しハードになりそうです。

最近だとコーヒーとタバコをセットにして、楽しむという習慣がないと思うので、吸わない人にとっては、この映画のテーマ自体がピンとこないこともあるかもしれません。今はタバコの代わりの役目をスマホが果たしているんじゃないかと思います。

タバコの灰が落ちたりコーヒーがこぼれたりして、テーブルを汚しまくっているし、飲むときにズズッと音を立てたり、アメリカもヨーロッパも皆がそんなにお上品ってわけじゃないというのがわかって、ちょっと安心しました。

コーヒーで乾杯するシーンが何度か出てくるけれど、それって欧米じゃ普通なんだろうか? お酒じゃなくても乾杯をする習慣があるんでしょうか? この映画で初めて知って面白いと思い、新鮮でした。

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