ドント・ルック・アップ|人類滅亡の危機を回避できるのか!? 笑えるけど恐ろしいSFコメディ

ディカプリオはその昔、タイタニック号に乗って氷山にぶつかってしまいましたが、今度は宇宙船地球号で巨大彗星と激突する運命なのか?

ジェニファー・ローレンスは迫りくる危機に、いつになく怒りをあらわにしています。

地球に衝突する彗星を発見した二人の天文学者の、笑えるけれど本当は恐ろしい、人類の危機を描いた映画です。

【原題】Don’t Look Up【公開年】2021年【製作国】アメリカ【上映時間】143分
【監督】アダム・マッケイ【脚本】アダム・マッケイ【撮影】リヌス・サンドグレン【音楽】ニコラス・ブリテル【キャスト】レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、メリル・ストリープ、ケイト・ブランシェット、ロブ・モーガン、ジョナ・ヒル、ティモシー・シャラメ、アリアナ・グランデ、タイラー・ペリー、ロン・パールマン、マーク・ライランス、メラニー・リンスキー

宇宙望遠鏡で天体観測をしていた天文学の博士候補ケイトは、未確認の彗星を発見する。報告を受けた教授のミンディがその軌道計算をしてみると、ほぼ100%の確率で地球を直撃することが判明する。直径5~10キロという巨大彗星であるため、衝突すれば地球上の生命体に壊滅的な影響を与えかねない。

二人はすぐに政府にコンタクトをとって危機への対処を進言しようとするが、女性大統領のオルレアンは、自分自身の支持率や次の選挙を考慮して、人類滅亡の危機に真正面から向き合おうとしない。

今度はメディアを通じて世界に警告を発しようとミンディ教授とケイトだったが、社会に混乱を引き起こすような内容に腰が引けたテレビ局は、事実を過小に報道しようとする。そして、壁にぶち当たった二人の間にも行き違いが生まれてしまう。

その間にも惑星は刻一刻と地球に接近し、やがて誰の目にも見える大きさまで迫って来るのだった。

ひたひたと迫る危機に人類は対処できないのか?

地球に巨大彗星がぶつかるという映画は、これまでにも色々ありました。最近だと日本の「君の名は。」がありました。「ドント・ルック・アップ」でも彗星が空を飛んでいるシーンがありますが、それを見て「君の名は。」を思い出した人は多いんじゃないかと思います。

ハリウッド映画でも「アルマゲドン」とか「ディープインパクト」とかがあったけれど、両方ともどちらかといえば真面目な映画で、彗星に核爆弾を仕掛けて衝突を回避するために、男たちが命を賭けるというマッチョな話だったと思います。

それに対して、この「ドント・ルック・アップ」は、かなり笑いの要素が入った、ブラックコメディな感じです。

ミンディ教授とケイトは、大統領に重大な事実を話せば、即座に対策をしてくれるものだと期待して会いに出かけます。ところが大統領が世界を救うことよりも自分の政権維持のほうが大事で、ミンディ教授たちが有名大学所属ではないと知ると、見下した態度をとったりします。赤いスーツを着ているのは共和党の大統領だからなのでしょうか。

大統領の息子である大統領補佐官がめっちゃ嫌なヤツで、もしかして政権で家族や親戚が幅を利かせるようになると、きっとこんな感じなのかと想像してしまいます。

鼻ピアスをつけた天文学者のケイトは怒りっぽくて、大統領補佐官とやりあったり、テレビで感情的にトークをして炎上し、ネットで攻撃されまくります。ちなみにケイトが路上で「恐竜が滅んだ時よりも大きな彗星がやってくる」と言った時に、その後ろのほうに恐竜の着ぐるみを着た人が宣伝ビラを配っていたりして、作品全体にいろんな細かなギャグが散りばめられています。

この映画でもやっぱり、核爆弾で彗星の軌道を変える作戦が立てられます。ところが任務を遂行するのに選ばれたオッサンがろくでもない人物で、これは「アルマゲドン」のパロディだと思います。

リアルと同じように女性歌手の役で出演したアリアナ・グランデは、映画の中でも男性関係でもめています。それでリアルと同じく社会貢献活動にも力を入れていて、ミンディ教授たちをサポートするために歌を歌ったりする。

さらには、自宅を離れて活動を続けるミンディ博士が、不倫までしちゃったりして、そんなことやってる場合かよと、ツッコみたくなります。

というわけで、皆が右往左往するのにはお構いなく、彗星衝突で人類が滅亡する日は刻一刻と近づいてくるんだけれど、一筋縄では行かないストーリー展開で、ハラハラしながらも笑ってしまいます。それでも、彗星が夜空に現れたシーンはやっぱり怖かったです。本当にそんなものが来たらどうしようと、思ってしまいました。

ちなみにエンドロールの終了後にもエピソードが組み込まれているので、最後の最後までお見逃しなく。

「真実から目を背けるな」というメッセージ

この「ドント・ルック・アップ」も巨大彗星がぶつかるという点では、他の作品と同じなんですが、コメディタッチの作品になっています。でも、作品はコメディタッチで描かれていますが、作者が発したメッセージそのものは、真剣でガチなものだと思います。

この映画のメッセージは言うまでもなく、タイトルである「上を見るな」とは反対の「上を見ろ」、つまり迫ってくる彗星を見ろ、事実を直視しろということですよね。ヤバいぞ、人類が滅亡しちゃうぞと。リアルでも、世の中にあるさまざまな重要な問題に対して「ちゃんと真実を見ろ」ということじゃないかと思います。

これをリアルの世界に当てはめてみると、目を背けてはいけない問題の最たるものは、たとえば地球温暖化でしょう。温暖化の危機が叫ばれ始めた当初は、そんなものは一部の人たちのでっちあげだという声も少なくありませんでした。その代表格がトランプ元大統領で、政府機関の温暖化の報告書を無視し、パリ協定からも離脱してしまいました。

しかし、温暖化の影響はすでに異常気象として現れています。これって、この映画になぞらえると、空を見上げればすでに彗星の姿が見えている状態なのかもしれません。だから、ちゃんと真実を見据えて対応しないと、とんでもないことになるぞ。この映画ではそう言っているのだと思います。

とはいえ今の時代、コメディタッチでなければなかなか耳を傾けてもらえない。たとえば、映画の中ではケイトがテレビ出演して怒りに震えながら真実を話したら、SNSで炎上してしまいます。これはスウェーデンの若き女性環境活動家のグレタ・トゥンベリさんが地球温暖化の危機を警告するたびに、炎上することのパロディでしょう。グレタさんが真剣に訴えれば訴えるほど、周囲で茶化す人間が増えていく。

でも、グレタさんを攻撃すれば温暖化問題は解決するのかといえば、まったく解決するはずもなく、事態は悪化の一途をたどるだけだと思います。

ではどうやって伝えるのが最善なのか。そういう部分も含めて映画化してしまったのがこの作品なのじゃないでしょうか。

地球温暖化以外にも、社会の分断や格差の問題も取り扱っています。映画の中では大統領やその息子、さらにBASHという大企業が自分たちの利益を追求するあまり、衝突の危機の回避に支障をきたしてしまうのです。そして、国民も「上を見るな」派と「上を見ろ」派の二つに分裂してしまうのです。

不安から目をそらそうとする人々の目的とは?

この作品の中では、100%地球に巨大彗星がぶつかるという科学的事実に、誰もが目を背けようとしています。それはやっぱり不安だからでしょう。サラたちを攻撃する人たちの行動は、その人たちの不安の裏返しなのではないか。そもそものミンディ博士自身が、日頃から精神安定剤を服用して精神的な安定を得ていて、周りにも飲ませようとしたりします。

また、この映画で重要な役割を演じる存在として、BASHというIT企業が出てきます。これはアップルみたいな企業、いわゆるGAFAのパロディだと思いますが、その会社のCEOが製品紹介で、子供が不安を感じた時にそれを検知して、スマホ画面に可愛い動物の動画を流すという機能のプレゼンをします。ところが、その舞台裏では子供をないがしろにしていたりする。

テレビ局や新聞社などのメディアもミンディ博士たちの話を紹介しますが、不安を煽らないように、やんわりと伝えようとする。そして、インターネットでの反響が思わしくないという理由で、紹介を打ち切ってしまいます。でも本来は反響が少ないときこそ、キャンペーンを張って真実を広めるのがメディアの役割のはず。ところが、それをしない。ネットでの反応が良くないから取り上げないというのも、一種の隠蔽だとこの作品では訴えています。

さまざまな面で子供だましの対応をして、お茶をにごしている。これは当然、リアルでも起こっていることで、その状況を告発しているのがこの作品の意味なのだと思います。

これはすべて日本にも当てはまることで、それこそ温暖化問題は地球規模だし、政治家が国民よりも選挙優先なのも、メディアが本来の機能を発揮しなくなりつつあるのも、格差や分断が深まりつつあるのも、全部この映画で起きていることと全く同じに映ります。

余談ですが、1951年にも「地球最後の日」という彗星が衝突するアメリカ映画が作られました。この作品では選ばれた人間が宇宙船に乗って地球を脱出するようです。その映画が日本でテレビ放送された時に、私の知人の母親が「私なんかじゃ選ばれっこないわよね」とつぶやいたのに対して、その知人は「お母さん、選ばれたいと思ってたんだ」と心の中で思い、笑いたいけれど切ない気持ちになったそうです。

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