レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ|ネタバレあり・ブルース・ブラザースと併せて観ると10倍面白い

ソ連の謎のバンドがアメリカへ

鳥のくちばしみたいに尖ったリーゼントヘアと、同じくつま先が長く尖った靴で揃えたバンドのファッションが、記憶に強烈に突き刺さる! アキ・カウリスマキ監督のちょっとシュールなコメディ映画です。ちょっと古い作品だけど、アマゾンプライムビデオで配信が始まったので、改めて観てみたら、やっぱり刺さりました。

ちなみに作品に登場する「レニングラード・カウボーイズ」はソ連のバンドという設定ですが、実は「スリーピー・スリーパーズ(Sleepy Sleepers)」っていうフィンランドの実在のバンドでした。この映画がヒットしてバンド名を「レニングラード・カウボーイズ」に変えたんだそうです。「スリーピー・スリーパーズ」をYou Tubeで探してみたら、ファッションは映画とは違ってド派手な、「ザ・フー」みたいなテイストのめっちゃカッコいいロックンロールバンドでした。映画に抜擢されたのもなんとなくわかる気がしました。

【原題】Leningrad Cowboys Go America【公開年】1989年【製作国】フィンランド、スウェーデン【上映時間】78分【監督】アキ・カウリスマキ【脚本】サッケ・ヤルヴェンパー、マト・ヴァルトネン、アキ・カウリスマキ【撮影】ティモ・サルミネン【音楽】マウリ・スメン【キャスト】レニングラード・カウボーイズ、マッティ・ペロンパー、カリ・ヴァーナネン、サッケ・ヤルヴェンパー、ジム・ジャームッシュ

時代はまだロシアがソ連だった頃で、場所はたぶんシベリアのどこか。「レニングラード・カウボーイズ」というバンドが、国内で売り出そうとしたけれど、演奏曲目がロシアの民族音楽ばかりで「古臭くて売れない」と言われてしまいます。それで、アメリカに渡って活動することを決意する。ところが、ニューヨークに行ってプロモーターに演奏を聴いてもらうがやっぱり話にならず、デビューを断られる。その代わりにメキシコの親戚の結婚式があるのでそこで演奏してほしい」と言われ、それを真に受けたメンバーたちは、途中いろいろな苦難を味わいつつも現地にたどり着く。

時代設定的には、ベルリンの壁が崩壊する前夜の話なんだと思うけれど、まだ共産主義国家だったソ連。主人公であるバンドがかなり変わっていて、バンド名の「レニングラード」はロシアの地名ということで理解はできるけど、なんでアメリカっぽい「カウボーイズ」なんだろうか? しかも、このバンドのメンバーのファッションが、ヘアスタイルが鳥のくちばしみたいに長いリーゼントヘアで、靴も同じくつま先が尖ったスタイル。その理由は作品中で一切明かされない。そもそも、メンバーの名前だって最後までほとんどわからない(一人だけわかるんだけどその理由が笑える)。なぜ、この人たちがどんな目的でバンドを結成したのかも、さっぱりわからない。まさしく謎のバンドなんです。みんな、最初はほぼ無表情で演奏してるんだけど、その中でドラムの人が演奏途中にスティクをくるくる回したり、無駄にテクニックを披露しているあたりが笑ってしまいます。

このバンドメンバーたちが健気というか、悪徳なマネージャーの言うがままにロックンロールが流行っていると言われれば、言われるままに練習し、カントリーウエスタンも演奏しちゃったり、もう何でもできてしまう、逆に言えばスーパーバンドなんですね。

「ロックンロールってこんなもんだろ」みたいなノリで演奏する、即興で作ったような曲の歌詞が、「俺は親のいいなりにはならねえぜ」って反抗期の不良の言い草みたいな取ってつけたような内容で笑えます。カントリーウエスタンを演奏する場面では、「カントリーってアメリカの農村のことだろ」みたいな思い込みから、「集団農場で働いていたら妻を共産党委員に寝取られた」みたいなソ連の「農村あるある」を歌詞にするんだけど、それがまったくウケない。「ボーン・トゥ・ビー・ワイルド」みたいなロックのスタンダードも演奏したりします。

音楽の才能はあるんだけど、自分たちが何のためにどこに向かっているのか、あんまりよくわかっていない。ただ言われるがままに車に詰め込まれて、長い道のりをひたすら走り続けるのです。同行しているマネージャーが悪徳で、バンドで稼いだ金を独り占めにして、自分だけバドワイザーを飲みまくったり、レストランでも一人だけ食事をしたりするんです。メンバーたちが「腹が減った」といっても、ドラッグストアで玉ねぎを一人一個ずつしか食わせない。おかげで「革命」が起きてマネージャーは後部座席に縛り付けられてしまう。そういうあたり、当時のソ連(というかロシアの歴史を通じて)一部の特権階級が国民から搾取するようすを皮肉っているようにも思えます。

ブルース・ブラザースに触発された作品!?

この映画はアキ・カウリスマキ監督が「ブルース・ブラザース」という映画に触発されて作られた映画なのかなと思います(推測でモノを言ってます。私の感想です)。「ブルース・ブラザース」は1980年に作られた作品で、刑務所から出所したばかりの2人のワルが、自分たちが育った孤児院が税金の未払いで存続の危機に立たされているのを知り、自分たちが以前やっていたバンドを再結成してカネを稼ぎ、孤児院の危機を救うという心温まる(?)話ですね。

この作品と「ブルース・ブラザース」とをセットで観ると、そういうことかと妙に納得できちゃいます。バンドが登場するロードムービーだという点がまず同じ。映画の最初のほうで「自分たちが育った孤児院の税金を払って救う」と、「金を受け取ったので結婚式で演奏する」というミッションがあり、トラブルを乗り越えながらも最後はきっちり約束を果たす。というのが2つの映画の共通した骨格です。さらに、メンバーのファッションが全員黒のスーツにサングラスだったり、両方の作品でカントリーウエスタンを演奏していたり、刑務所に入ったり、いろいろ共通点があります。明らかにアキ・カウリスマキが「ブルース・ブラザース」をリスペクトしてつくった作品です。

基本的には両方ともコメディ映画ですけれど、乾いたギャグが多いというか、いかにも「ここ笑うトコですよ」というような笑わせにくるシーンが少ないのもテイストが似ています。おかげで、両方の作品とも「どこで笑えばいいかわからない」「ギャグが面白くない」みたいなコメントが多いみたいです。作られた時代がどちらも30~40年前なので、今どきとは笑いのツボが違うというのも、あるとは思いますが。

「レニングラード・カウボーイズ」に出てくるアメリカは、ビルが立ち並ぶ都会の夜景みたいな風景も出てくれば、地方の田舎の景色が映し出されていて、荒野の中にポツンと古びたダイナーやドライブインなどが建っている、寂れた「ラストベルト」的なアメリカも出てくる。イケイケなアメリカだけじゃなく、その裏にある経済的にもあまりイケてなさそうな風景も登場し、時々、廃車になったクルマが山積みにされている風景も描かれています。

「ブルース・ブラザース」では作品の後半にカーチェイスをしてガンガン車を潰しまくるシーンが出てきて、当時のアメリカの豊かさとか大量消費社会を象徴していたと思います。それが、9年後に作られた「レニングラード・カウボーイズ」では、道路脇に廃車の山があって、思ったほどアメリカってパラダイスじゃなよね、という描かれ方がされています。

それで、結局バンドはアメリカからメキシコにわたり、そこで演奏しながらエンディングを迎える。メキシコって経済的な豊かさでは、アメリカと比べてどうなんだという話だけど、結局はそこで親しい人たちに囲まれながら生きていったほうが、金を目当てに生きるよりも幸せなんじゃないか。という結末になります。そのために金目当てのマネージャーは自ら姿を消すのです。

ここじゃない別の所に行けば良いことあるかも?

タイトルの「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」ですが、この映画が出た1980年代に一世を風靡していたのが「フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド」というイギリスのバンドで、「リラックス」という曲が大ヒットしていました。きっと、そのバンド名も意識した映画タイトルなのかなと思います。

「フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド」というのは、往年のジャズ歌手のフランク・シナトラ(愛称がきっとフランキーですね)が映画に進出することになり、歌手一筋だったのにハリウッドに魂を売りやがって、みたいなことで「都に出て堕落する」みたいな意味があるスラングを、バンド名にしたらしいです。

そこから考えると「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」は、ソビエトの共産主義のもとで倹しく暮らしていたのが、アメリカに出稼ぎに行って民主主義に染まって堕落するみたいな、皮肉も交えたタイトルなんだと思います。

この作品はベルリンの壁が崩壊する直前に作られた映画だと思いますが、ということは、共産主義にうんざりして、西側諸国に行きたいみたいな人もいたのでしょう。当時、ソ連の人たちがアメリカンドリームという言葉を意識していたか、どうかはわからないけれど、民主主義国に行けば違う人生があるんじゃないか、と思う人がおおかったのでしょう。

自分たちが生まれ育った場所以外のどこかへ行きたい、「ここじゃなければどこへでも」みたいな願いは、結局幻想なのかもしれない。だけど、音楽は世界どこでも共通だよねという話です。

ちなみに、この映画に先立って同じく80年代に、吉幾三の「俺ら東京さ行ぐだ」がヒットしたのは偶然でしょうか。偶然ですね。

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