音楽|伝説のマンガと衝撃の音楽のコラボが魂を揺さぶる青春アニメ。
楽器を初めて手にしたヤンキー高校生3人の演奏が、ロックの根源といってもいいくらいなパフォーマンスで、とにかく衝撃的です!
原作となった大橋裕之の「音楽」というマンガも、カルト的な人気を博する伝説の作品らしいです。
【原作】大橋裕之「音楽 完全版」【公開年】2019年【製作国】日本【上映時間】71分
【監督・作画】岩井澤健治【脚本】岩井澤健治【音楽】伴瀬朝彦、GRANDFUNK、澤部渡
【声優】坂本慎太郎、駒井蓮、前野朋哉、芹澤興人、平岩紙、竹中直人
海に面した地方都市の3人のヤンキー高校生たちが主人公。リーダー格でスキンヘッドのケンジは、ある夜、繁華街でおきた警察沙汰がきっかけでベースを手に入れる。それをきっかけに、突然バンドを組むことを思いつき、仲間と一緒に自宅で演奏活動を始める。
バンド名を「古武術」と名付けるが、ところが同じ高校内に「古美術」というバンドが存在するのを知り、彼らを訪ねて曲を聴かせてもらう。
ケンジたちは「古美術」からの誘いで、町のロックフェスに出場することになるのだが。
目次
7年がかりで4万枚の原画を手書きした自主制作作品
このアニメは、今回NETFLIXでたまたま観るまで全く知らなかったのですが、とにかくめっちゃ面白くて感動したので、調べてみたらものすごいアニメでした。
・2019年のカナダのオタワ国際アニメーション映画祭で、なんとグランプリを受賞した。そして、日本国内でも多くの観客を動員して大ヒットしている。
・フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭という世界4大アニメ映画祭のひとつで、「最優秀オリジナル音楽賞」を受賞した。
・もともとは大橋裕之さんという人の「音楽」という漫画が原作。
・これを岩井澤健治さんという監督が長編アニメ化した。
・しかも、岩井澤監督は71分のアニメ原画4万枚を、7年かけてほとんど一人で、手描きで製作した。
・声優陣も錚々たるメンバーが参加。
もともとのキャラクターの描き方がシンプルではありますが、それをなんと一人で描いたとは思いもよりませんでした。町の風景のシーンなどは、色の塗り方なんかがいかにも手書き風で、見ていて懐かしくなるのはなんでだろうかと思っていたけれど、手作り感満載だということですね。
それに対して、とくに最後のフェスの演奏シーンなんかは、動きの微妙な描写など手が込んでいて、映像からもグルーブ感が感じられるのが凄い。さらに、実際の演奏している映像をアニメ化する手法なども使っているようで、ライブ感に満ちています。
これを7年かけて製作するという点だけでも、驚いてしまいます。監督の執念を感じます。
流行りとかトレンドとか、そういう話ではなく、自分が心を奪われ動かされたものを形にしたい。その思いはどの時代にも普遍的だし、国を超えることも可能。それが映画祭のグランプリ受賞につながったのかと思います。
一見、昭和の文化?でも内容は時代を超えている
・今どきリーゼントヘアのヤンキーなんかいるのだろうか?
・ケンジの同級生である女子高生アヤのヘアスタイルやファッションが、昔のスケバン風。
・ライバル高のヤンキーたちは、全員がモヒカンヘア。
・「古美術」はフォークソング研究会所属。このフォークソングという言葉も今では死語。彼らが歌う曲も昭和のフォークソングみたいな感じ。
という状況から考えれば、最初はこの話は1970年代が舞台だと思いました。
ところが原作の大橋裕之さんは1980年生まれなんだそうで、だとすると70年代ではなさそうです。大橋さんは愛知県蒲郡市出身だということですが、つまり蒲郡では90年代後半までこの作品に登場するようなヤンキー高校生がいたということなのか? このアニメに出てくるような「フェス」が、日本で浸透したのってフジロックが始まった1997年だよな。
と、いろいろ疑問に思いましたが、描かれている時代がよくわからない点が、逆にこの作品を不思議な感じにしている、というかどの時代にも通じるものにしていると思います。
原作にはない楽曲がさらに作品をパワーアップ
ヤンキーたちが初めて演奏した曲が、超シンプルなんだけれど、感動してしまいます。確かに初めて楽器をもった人がすぐ演奏できそう。でも、こういう発想はなかなかできない。
この楽曲の部分は、当然ですが原作の漫画にはない部分なので、アニメ化する際に楽曲担当が「作曲」したんだと思いますが、この曲にやられました。このアニメを観て感動した半分はやっぱり曲にありますね。
地方都市のヤンキー高校に通ってケンカばっかりしているけど、本当は何をやっていいかわからなくて悶々としている。そんな彼らの演奏は、魂の叫びみたいで、ストレートにハートに伝わってきます。
それからヤンキーたちの「古武術」と文化系サークルの「古美術」は、対照的なキャラクターなんだけれど、それが音楽を通じて分かり合うみたいな部分も面白かったです。
見た目とか日頃つるんでいる仲間とかで分類しがちだけれど、高校生たちの中身はもっと多様で複雑だと、そういうことを改めて教えられた感じです。
こういう唯一無二なアニメは貴重で、もっと観てみたいと思います。